本研究の目的は,検査者が筋内に存在する異常部位(筋硬結)を触診するときの力の加え方を定量化し,その結果をリアルタイムに視覚フィードバックするシステム(触診技術向上支援システム)を構築することである.このシステムを構築するためには,生体内に筋硬結が存在している状態を模擬した人工物(筋硬結触診シミュレータ)を製作する必要がある.なお,このシミュレータを構成する皮膚皮下組織モデルと筋モデルは生体の皮膚皮下組織及び筋の機械的特性が模擬されており,またこれに埋め込められる筋硬結モデルは臨床で遭遇する機会の多い筋硬結の性状が模擬されている必要がある. そこで我々はこれまでに,生体の皮膚皮下組織及び筋の機械的特性を別々に計測する手法を開発し,皮膚皮下組織と筋それぞれの応力-ひずみ特性を明らかにしてきた.また,アンケート調査を行い,臨床家がイメージしている筋硬結の性状を明らかにしてきた.そして,皮膚皮下組織モデルと筋モデルの製作を目指してきたが,生体の応力-ひずみ特性をシリコーンやウレタンなどの均一物質で再現することは困難であった. そこで,最終年度において,まず生体の応力-ひずみ特性を再現する方法の開発に注力した.その結果,ウレタン構造物の中に伸縮性のシートを埋め込むことで,完成物の応力-ひずみ特性を調整できることを見出した.そこで,埋め込む伸縮性シートの枚数や位置を変化させた複数の皮膚皮下組織筋モデルを製作し,その応力-ひずみ特性を計測した.また,それらのモデルを実際に臨床家に触ってもらい,その触察感の生体との類似性について評価してもらった.その結果,生体に似た応力-ひずみ特性をもつ皮膚皮下組織筋モデルが,最も生体に似た触察感を示すことが分かった.その後,皮膚皮下組織筋モデルを改良するとともに,筋硬結モデルを埋め込んだ筋硬触診シミュレータの製作を行っている.
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