研究課題/領域番号 |
24500522
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (00309270)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 生体硬組織 / 生体軟組織 / 微小損傷 / 恒常性 |
研究概要 |
骨のマイクロダメージは,人間の健康と密接に関連している身近な問題であるが,骨疲労損傷に関する研究が十分に実施されていないことに帰因して,その発生程度は定量的に把握されていない.特に,これまでの骨の疲労試験では,疲労破断時の特性を短時間で求めることができるように,高荷重レベルの非生理的な繰り返し負荷を試料に作用させており,生体内でみられる低い負荷を作用させた試験の結果は,Schaffler et al.(1990)の研究以外は報告されていない.よって,生体内負荷環境を考慮した条件で,低負荷レベルで発生する骨のマイクロダメージを解析した研究は国内外ともに全く存在しない.一方,骨組織の微小損傷に関する研究(Burr, et al., 1998)は多少実施されているのに対して,生体軟組織である腱や靭帯,皮膚や血管で発生するマイクロダメージに関する研究は,全く行われていない.これらの軟組織でも力学的負荷下で組織の吸収と形成が常時繰り返されており,マイクロダメージの修復機構が組織の新陳代謝プロセスと関連している可能性は十分に考えられる.しかし,この仮説の検証は試みられておらず,軟組織の恒常性や適応機構においてマイクロダメージの果たす役割は不明である.平成24年度に実施した研究では,高血圧症や脳卒中の実験モデルラットの骨では,骨粗鬆症の症状を発生することに着目して,これらのモデル動物の皮質骨の力学的特性や海綿骨形態などを調べた.これによって,高血圧症モデルラットの骨組織が骨粗鬆症の病態を生体力学的に解明するために利用可能であることを明らかにするとともに,これらの骨組織の退行性変化を定量化した.また,生体軟組織である腱・靱帯,血管,皮膚について,伸展性や微視的損傷を検討することで,各組織の力学的機能の維持がどのような機構で行われているのかについての知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,高血圧症の疾患モデル動物より摘出した大腿骨を生体力学的に評価し,正常動物の骨組織の特性と比較することで,骨組織の生体力学的特性に及ぼす高血圧症の影響について検討した.高血圧症モデルラット(12,20 週齡のオスとメス)の大腿骨に対して圧縮破壊試験を実施した.大腿骨骨幹部の圧縮強度は,両性別の全ての週齡において,比較対照群より高血圧症群で低値となっており,12 週齡のメスを除いて,両群の間に有意差が認められた.これらの結果より,骨組織生体力学的特性に対して高血圧症が影響を及ぼすことが明らかになっている.また,創傷治癒過程にあるヘアレスラット背部皮膚の力学的特性を調べた.引張試験の結果として,創傷を与えた皮膚であるWound群と比較対照の正常皮膚であるControl群の応力-ひずみ線図と,紫外線を照射したUV群とその比較対照であるUVControl群の応力-ひずみ線図を求めた.Control群,UVControl群の応力-ひずみ線図は,低応力領域では応力に対するひずみの増加が大きくなっており,応力が高くなるにつれてひずみの増加率が減少しているのがわかった.各群の引張強度では,Control群,UVControl群が高値を示しているのに対して,紫外線を照射して損傷させたUV群,皮膚に直接創傷を与えたWound群の順に低値を示した.また,Wound群とControl群との間には有意な差が認められた.さらに,UV群とUVControl群との間にも有意な差が認められており,創傷部位の強度は創傷のない皮膚に比べて著しく低下していることが確認できている.
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今後の研究の推進方策 |
硬組織である骨については,生理的負荷レベルを考慮した実験ではないものの,骨に発生する微小損傷を観察するための蛍光染色法が考案されている.本研究でも,この手法を実施する.また,より高精度で微小損傷を検出できるように,浸透性の良い造影剤を利用したX線マイクロCTの骨試料観察を行う予定である.一方,軟組織である腱・靭帯に対しては,微小損傷を検出する手法を検討する必要がある.微小損傷の有無によって,色素や微小粒子の組織への浸透度は異なることが推察される.また,超音波の反射波も組織の損傷度に依存する可能性が高い.よって,本研究では,液性因子の組織透過性と超音波を利用して,生体軟組織の微小損傷検出方法を開発する.微小損傷の定量化手法を確立した後は,正常の骨や腱・靭帯組織に生理的負荷レベルの繰り返し負荷を作用する力学試験を実施して,損傷発生の程度を明らかにする.次いで,老化や骨粗鬆症の状態にある組織を対象とした実験を行い,生理的負荷下で発生する微小損傷の定量化を試みる.このような一連の実験を通して,負荷環境下にある組織の機能維持や適応変化が,組織のマイクロダメージと関連しているとの仮説の検証するとともに,生理的負荷レベルの下で正常な骨や腱・靭帯組織に発生する損傷や,老化や疾患が骨や腱・靭帯のマイクロダメージ発生に及ぼす影響を調べていくことで,最終目標として,損傷によって誘因される組織吸収ならびに形成の機構を定量的に明らかにしたいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
大がかりな実験装置を新たに購入して行う計測などは予定していない.次年度以降は実験用材料や消耗品の購入を十分に行う.疾患モデルを含む実験動物の購入は,実験試料を得るために必須である.さらに,組織の疲労特性の評価は液中で行う必要があり,組織を37度のリン酸緩衝溶液(PBS)に浸積させることのできるアクリル水槽を作製するための材料も購入する.成果発表のための旅費や論文投稿・別刷り料としても,研究費を使用する予定である.特に,25,26年度には,得られた研究成果を海外で発表する機会として,米国機械学会や世界バイオメカニクス会議への講演申込みを計画している.
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