生体組織における微小損傷の発生は,組織の力学的適応制御機構と密接に関連しており,リモデリング現象が引き起こされる際の刺激として働くものと推察されている.一方,損傷の蓄積が生体の修復能力を超える場合には,最終的に病的症状を引き起こすことになる.このように生体組織の損傷は,機能維持と障害要因という相反する面に関与する極めて重要な事象である.生体硬組織である骨のみならず,軟組織である皮膚や血管においても,組織に発生する部分的ダメージに関する研究は十分に行われていないのが現状である.これらの全ての生体組織では,力学的負荷下で組織の吸収と形成が常時繰り返されており,ダメージの修復機構が組織の新陳代謝プロセスと関連している可能性が十分に考えられる.平成27年度の研究では,脳卒中易発症ラットの脛骨に,直径2.5mmのドリルを用いて円脛骨欠損を作成した後,損傷の修復過程をX線マイクロCTによって観察した.その結果,高血圧状態では仮骨形成が遅延する傾向がみられ,高血圧症は骨修復を阻害する可能性が示唆された.また,ヘアレスマウスの背部皮膚に対して,UVランプを用いて紫外線照射強度を段階的に増加させながら,紫外線を照射する実験も併せて行った.紫外線照射によって損傷を発生させた実験群をUV群,何も処置を施さない正常皮膚のデータを取得するための群をControl群とした.各実験群の背部皮膚から組織観察用の試料を摘出した.摘出した試料を組織固定した後,ヘマトキシリン・エオジン染色を行った.その後,得られた組織薄片から表皮および真皮の厚さを計測した.その結果,表皮,真皮ともに紫外線によるダメージによって,厚さが増加することが確認された.これらの研究によって得られる知見は,皮膚の伸展性を維持できる新たな損傷防止手法の開発の一助になるものと推察される.
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