MDA-MB-231(高転移性ヒト乳癌細胞)とB16(マウス悪性黒色腫)を用い低電圧電気パルス刺激を行い、アポトーシスを誘導した。本研究では、その際のカスパーゼ活性化経路の解明および細胞内カルシウム変化を調べた。結果として、細胞膜に存在するdeath receptor由来のカスパーゼ8の活性化とミトコンドリア由来のカスパーゼ9の活性化がほぼ同時に起こり、遅れてカスパーゼ3の活性化が認められた。このことから、低電圧パルス刺激は細胞膜レセプターのみならずミトコンドリアにも作用していることが分かった。そこで、小胞体への作用を確かめるために細胞内カルシウムの変化を調べたところ、刺激によりカルシウム濃度の上昇が認められた。これらのことより、低電圧パルス刺激は細胞膜のみならず広く細胞内小器官に作用していることが分かった。 現在癌臨床で用いられている治療法のひとつに電気抗癌剤療法があるが、高電圧を要することから熱損傷や全身麻酔を必要とするなど広く普及するまでには至っていない。そこでこれらの欠点を克服する手段として、低電圧パルスを用いた電気抗癌剤療法の可能性を探った。結果として低電圧電気パルスと抗癌剤を用いたところ、癌細胞増殖を効率的に抑制できることが分かった。 一般的に、癌組織は嫌気的状態であり抗癌剤は高酸素状態になる程効果が高いとされている。そこで、低電圧パルスを用いた電気抗癌剤療法をさらに効果的にするために組織酸素化を促す必要がある。酸素過飽和輸液剤があれば癌治療のみならず広く医療全般に極めて有用である。この点に関して、酸素マイクロバブルに着目し酸素過飽和輸液剤作製のための基礎的研究を行った。結果として、酸素過飽和輸液剤の候補として生理食塩水が最も有力であることが分かった。
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