今年度は,合金細線作製時の条件を変更し,製造後の細線の加工性が改善するかを評価したが,微細組織制御にも限界があり,加工性向上には至らなかった。また,金合金の組織微細化に有効であることが知られているIrおよびRhの微量添加の効果を評価したが,特にIrでは磁化率の変化が大きく,アーチファクトフリーを維持することが困難であった。Rh添加による磁化率の変動は,合金組成の調整でカバーできると推定されたが,強度の低下が予想されることから,こちらも有効ではないと判断した。最終的には,試作脳動脈瘤クリップのブリッジ線の直径を小さくすることで加工を可能とし,試作クリップを完成させることができた。しかし,ブリッジ線を細くした結果として,クリップのブレードの開口量を制限する能力が低下する恐れが生じ,ブリッジ線の2重化などの対応策が必要と考えられた。 研究期間全体を通じ,MRI中で磁化率アーチファクトを生じないAu-8Nb-5Pt合金を開発し,この合金が軟化熱処理と硬化熱処理を用いることで加工性と強度を両立できることを見出した。この合金は線材への加工が可能で,MRI中でのアーチファクトを大きく低減できる脳動脈瘤クリップの試作に成功した。この合金は,脳動脈瘤塞栓用コイルの作製も可能と推定され,様々なアーチファクトフリーデバイスを作製可能と判断されることから,当初の目標は概ね達成できたと考えている。 残念なことに,試作クリップのコイル部には明瞭なアーチファクトが生じていたが,このアーチファクトはクリップデザインに由来することを新たに見出した。すなわち,クリップのバネであるコイル部がMRI中で変動磁場に晒される結果,誘導電流が生じ,磁場を生成するためにアーチファクトを生じると判断された。従って,アーチファクトフリーのデバイスを作製するには,非磁性合金の使用に加え,デバイスデザインの最適化も必要である。
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