研究実績の概要 |
これまで生体機能の一部あるいは全部を代替する目的で開発されている「バイオマテリアル」は人工材料であるため、免疫による拒絶がほとんど生じないことがメリットの一つであった。しかしながら、もし、材料が積極的に免疫系に働きかけ、免疫細胞(ナチュラルキラー細胞(NK細胞), T細胞など)を活性化することができれば、現在、がんの治療法として注目されている「養子免疫療法」に新機軸を提案できる。 我々はこれまでに免疫系に作用する二種類のバイオセラミックス(イムノセラミックスと定義)の試製に成功している。ひとつは、前年度までの研究成果である、生体適合性の高い「水酸アパタイト(HAp)」の固溶体である「ホウ素含有アパタイト(BAp)」を利用したものであり、養子免疫療法に有効なマウス脾臓由来の免疫細胞中のT細胞やNK細胞の比率を向上できることを明らかにしている。 もうひとつが今回の成果である、「イノシトールリン酸(IP6)」を表面修飾したHApセラミックス(IP6-HApセラミックス)である。このIP6-HApセラミックスを培養基材として、マウス脾臓由来の免疫細胞を共存培養すると、BApと同様、養子免疫療法に有効なT細胞の比率を増加させることができることを見いだした。この研究成果は本学TLOから特許出願されている(特願2014-192763)。これまでIP6の免疫賦活効果は知られていたが、IP6単独よりもHApのような基材とキレート結合したIP6-HApセラミックスの方が効果的に免疫細胞を賦活化できることを明らかにしている。 上記で述べた「イムノセラミックス」は、免疫細胞(NK細胞, T細胞など)を活性化することができる新規な培養基材として期待され、この新材料を活用することにより、現在がんの治療法として注目されている「養子免疫療法」に新機軸を提案できる。
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