研究課題/領域番号 |
24500533
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
速水 尚 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20173057)
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研究分担者 |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
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キーワード | 人工骨 / バイオマテリアル |
研究概要 |
本研究の新奇性のひとつは、3Dプリンタを用いてエンジニアリングプラスチック(EP)製ヒト海綿骨を作製することである。H25年度、3Dプリンタを用いた製造技術が世界で脚光を浴び、経済産業省が各種企業等へ導入奨励したのは周知である。本研究はこの影響を受け、外注先に突然多数の加工が発注されたため人工骨の納期が遅延した。一方、本研究課題がこのような世情を的確に捉えていたことを実感した年でもあった。 H24年度の予備的研究を本実験に移して実施し、公表可能な成果を得て一部を発表した。また、H24年度の射出成形で製作したEPに対応する本実験として、3Dプリンタで製作したEP材の一般強度実験、切削性実験を完了し、強度は構造形態を最適設計することで生体骨と同等レベルに調整できることおよび被削性は生体骨より優れ、本人工骨は人工関節軟骨の下骨として必要十分な機械的特性を有することを明らかにした。 H24年度は3D造形基材へ被覆したチタン(Ti)薄膜の密着性とその表面での単純な細胞増殖実験を行い、良好な生体親和性をEPに付与できることを確認した。H25年度は、Ti薄膜を人工骨の複雑な内部構造深部まで到達させるための条件検索と骨芽細胞の増殖能だけでなく分化能も確認した。Ti薄膜の被覆性につき、生体骨を模倣した構造において空孔の表面から内部へ 5 mm の深部に至る被覆の到達を確認した。同外形寸法のより単純な幾何学的構造では、Ti薄膜は構造の内外全体に成膜され、本課題で採用したスパッタリング法が人工骨に対して優れた被覆性を示すことを確認した。細胞の増殖・分化能は、構造の表面粗さに大きく影響された。最適な表面粗さ値および濡れ性が存在することが示唆され、H26年度の研究で追究する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度では、(1)3DプリンティングによるEP海綿骨の製作手法の確立と人工骨の力学的特性の確認、(2)EP海綿骨へのTi薄膜の完全な被覆の達成および(3)EP海綿骨と骨組織との生物学的な結合性の追究であった。 (1)および(2)については、基軸となるデータを確定でき、予定通り進展したと判断する。しかし、EP海綿骨の製作に遅延が生じ、実験数が不足して十分な統計学的信頼性を得るには至らなかった。方法論は確立されているので、今後実験数を増加する作業に傾注することで、H26年度早期には予定を達成できる見込みである。 (3)in vitroでの実験を行い、骨芽細胞の増殖能を向上することができた。一方、骨分化能について、分化活性が期待した程大きくなく、満足できる結果を得られなかった。これに対する各種の工夫をこらす過程で新たな課題を見い出せた。すなわち、細胞増殖に最適な表面粗さが存在することおよびTiに他元素をドープするとアパタイト誘導能が出現して、骨伝導能が飛躍的に向上する可能性があることを示唆する結果を得たので、これらについても研究の必要性が指摘された。H24年度終了時、骨分化能を測定する装置の完備に手間取って実質的測定はH25年度に実施する旨報告した。測定には高度な技術が必要であり、特にヒト骨芽細胞に対する測定で苦労したが、マウス骨芽細胞を使用して対処するともにその実験過程から学んだノウハウをヒト細胞に適用して、比較的スムースに結果を得ることができるようになったことは、副次的ではあるが今後の課題進行に役立ったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、これまでの2年間の研究でH26年度の研究成果と合わせてEP海綿骨完成の見込みが立った。H26年度は作業的に最も時間と労力を必要とする動物実験を予定している。幸いなことに細胞を用いたin vitro 実験および疑似体液を用いた模擬生体内実験を効率的に実施できる環境を確立したので、動物実験を相当数削減できると思われる。 まず、EP海綿骨の骨梁に相当する構造の表面粗さと濡れ性を基礎的に追究して、骨芽細胞の増殖能から生体内での骨伝導能を推定する実験を推進する。同時に、Tiに他元素をドープしてEP海綿骨に被覆し、骨伝導能出現の根拠となるアパタイト誘導性を検索して、動物実験で検証される骨伝導能評価の基礎データを得る。期待している結果が示されれば、動物実験数を大きく削減できると期待される。 一方、平行して研究してきたポリビニルアルコールゲルを用いた人工関節軟骨について、本EP海綿骨と結合する技術の開発を推し進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた細胞分化の確認実験の試薬購入経費である。この試薬には有効期限がありかつ高額であるため、実験予定と購入発注のタイミングは慎重に決める必要がある。実験日程から購入発注日を逆算し、次年度当初に発注とした方がいいと判断したため。 上記の通り、使途と使用時期が明確であり、H26年度開始後直ちに使用する。H26年度の助成金と合わせて、別の実験項目のために使用するわけではない。
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