本研究では、人工骨の素材として従来使用されてきたチタン(Ti)に比較して、弾性率等が生体骨組織に近いスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリエーテル樹脂(PE)に生体親和性を与える方法と、人工海綿骨としての形態を与える方法を検索した。H24~25年度の2年間は、3Dプリンタを用いてヒト海綿骨構造を作製する技術を追究し、高額なPEを用いず、安価なポリアミド樹脂による試作と設計規準を検索した。期間後半にはPEを用いた海綿構造の構築に成功した。また、3DプリンタによるPE製細胞培養基板を用いて、生体不活性材料であるPEに生体適合性を付与することに成功した。 H26年度は動物実験の最少化を踏まえて、TiおよびNa2Ti3O7薄膜被覆したPE基板に対する骨芽細胞増殖および分化能確認実験と疑似体液(SBF)浸漬実験を行った。Ti薄膜では、期待した細胞分化能およびSBF浸漬でもアパタイトが析出しなかった。そこで、Na2Ti3O7薄膜を採用して対策したところ、分化能の発現とアパタイトの発現を見ることができ、PEに生体親和性を付与することが可能であることを示した。一方、気孔率や梁の寸法を変更した4種類のPE製海綿構造の見かけの弾性率と圧縮強さを測定し、生体骨のそれらに近い値をもつ構造を特定した。また、Na2Ti3O7薄膜が多孔質構造の表面から深部に到達する距離を測定し、表面から5 mm以上の深部にまで被覆可能との結論を得た。この深さは、生体内で新生骨がPE製海綿構造に侵入する限界を超えており、実用上優れた値であると判断した。さらに、人工関節軟骨材料であるPolyvinyl alcoholゲルの開発として、力学的、熱力学的特性と対生体関節軟骨との潤滑特性を詳細に検索するとともに、PE製海綿構造との結合についても研究して、人工関節軟骨が実現可能である旨の結果を得ることができた。
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