研究課題
本研究の目的は,従来発熱素子として利用してきた感温性磁性体(Au-FILCT)を温度計測用プローブとして利用し,腫瘍部の温度をワイヤレスで計測しながら誘導加熱するために必要な学術的基盤を構築すると共に,最新の工学技術を用いた低侵襲温熱治療システムを実現することである.患者の悪性腫瘍に注射されたAu-FILCTは駆動用コイルが発生する磁束φを引き付けるが,キュリー点を超えると透磁率が1/100以下に低下し,周囲の磁束φを引きつける力を失う.その結果,磁束φの垂直成分の変化を検出コイルの誘導起電力としてロックインアンプで同期検波することで,患部が治療に適した温度に到達したことを検知できる.しかしながら,体動が生じると患部に埋め込まれたAu-FILCTも移動してしまい,検出コイルの起電力の変化がAu-FILCTの透磁率の低下によるものなのか位置の変位によるものなのかを識別できない.そこで,発想を転換し,検出器側を周期的に動かすことで不規則に生じる体動を識別できるのではないかと考え,その為に必要な要素技術を構築した.臨床での利用を想定すると,横たわった患者の身体に合わせて磁場印加検知ユニットの高さを調整し,三次元空間で正確に回転走査しなければならない.そこで本研究では,ロボットアームを組み合わせた低侵襲温熱治療システムを試作すると共に,体動の上下動を模擬した回転走査条件下における目標温度検知手法を考案し,物理実験により妥当性を検証した.その結果,Au-FILCTとピックアップコイルの距離に応じて磁束密度の変化量が回転走査の周期と同期して増減することを確認し,その振幅がAu_FILCTの温度がキュリー点に近づくと急激に低下することを明らかにした.さらに,LabVIEWによる誘導加熱用電源の自動制御プログラムを開発すると共に,体内に埋め込まれた金属を検出するための金属探知機を用いた事前検査手順を構築した.
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