研究課題/領域番号 |
24500548
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
澤田 秀之 香川大学, 工学部, 教授 (00308206)
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キーワード | 検査・診断システム / 触覚呈示 / 形状記憶合金 / 微小振動 / 触覚受容器 / 溶接 / 糖尿病 / 非侵襲検査 |
研究概要 |
糖尿病の主要な症状の一つである指先の触覚感度低下が、発症の初期から発見でき、症状の進行度を定量的に計れることは、早期の診断や的確な治療に大きく貢献できる。本研究では、糸状に加工した形状記憶合金(SMAワイヤ)の微小振動子をアクチュエータとして用いた触覚デバイスを構築し、微小振動刺激に対する触覚受容器の働きや機能を調べる。更に、糖尿病患者らの症状の一つである指先感覚の喪失の程度を数値化する、指先触覚感度測定手法を開発する。 昨年度は主に、SMAワイヤを用いた高出力触覚呈示デバイスの構築を進め、多様な触覚刺激呈示に対する4つの触覚受容器の高次知覚の生起に関する研究をおこなった。本触覚呈示デバイスは、アクチュエータが最大200Hzの振動を起こすため、一般的な半田付けによる方法では、接合界面が動作に追従できず剥離してしまうという問題がおこった。そこで、レーザ溶接によるSMAワイヤの接合方法を開発し、安定して多様な触覚刺激を呈示できるシステムを構築し、その接合強度ならびに振動持続性に関する有効性を実証した。更に、構築した触覚呈示デバイスの動作検証ならびに、振動刺激パターンに対する触覚受容器の高次機能の科学的理解と、指先触覚感度測定システムの制御手法の開発をおこなった。特に、新しい触覚の高次知覚の呈示として、Cutaneous Rabbit現象が可能であることを示し、呈示パラメータの検証をおこなった。また、末梢神経障害に起因した指先感覚の喪失の程度を数値化するプロトタイプを構築し、糖尿病患者を被験者として、指先触覚感度測定実験を開始した。 これらの研究成果について、英文論文誌への掲載、国際学会発表、国内学会への発表を行うと共に、現在、特許の申請書類の作成をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目の計画は、振動刺激パターンに対する触覚受容器の高次知覚機能の科学的理解ならびに、指先触覚感度の定量的測定に関する研究の遂行であり、下記の通り、順調に進めることができた。 まず前者については、これまでに構築してきた触覚デバイスと、本研究で構築した高出力触覚デバイスとの併用によって、より広範囲の周波数による振動変位ならびに振動圧力の呈示が可能となった。そこで、これまで知られている触覚の高次知覚であるファントムセンセーション(Phantom Sensation)および仮現運動(Apparent Movement)の呈示をおこなう制御パラメータを選定し、これにより物体をなぞった際の多様な触覚感覚が呈示できることを示した。更に、新しい高次知覚として、Cutaneous Rabbit(皮膚上の兎)現象の呈示システムを開発した。この現象を利用して、2つの振動子を用いて皮膚上の二点を特定の条件で刺激すると、その間の複数の位置を触感覚がホッピングしていく幻覚を呈示することが可能となった。 更にこれらの高次知覚呈示手法を利用し、指先触覚感度を定量的に測定するシステムの開発をおこなった。触覚呈示デバイスから様々なパターンと強度の振動刺激や高次知覚感覚を呈示し、患者はデバイスへのタッチから知覚される感覚を回答することにより、末梢神経障害に起因した指先感覚の喪失の程度を数値化するものである。現在までに、測定のためのプロトタイプを構築し、本学の附属病院において実証実験ならびに、検査のための振動パラメータの選定を進めた。 研究最終年度である次年度には、末梢神経障害の定量的測定システムの実用化を目指し、本デバイスの有効性の検証をおこなっていく。同時に、触覚受容器の高次機能の科学的理解にむけた研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、皮膚のミクロンオーダの部位に、300Hzまでの微小振動刺激を与えることで、触覚の高次知覚であるファントムセンセーション、仮現運動およびCutaneous Rabbit現象の呈示が可能であり、これらを利用して、物体をなぞった際の様々な触覚感覚が呈示できることを示した。更に、指先触覚感度を定量的に測定するシステムの開発を進め、これによって糖尿病患者の指先感度低下の程度を定量的に測定することが可能であり、病気の進行度のスクリーニングに利用できる見込みを得た。今後は、末梢神経障害に起因した指先感覚の喪失の程度を数値化するシステムを構築し、実用化を目指した実証実験をおこなっていく。特に、糖尿病患者に対する指先触覚感度測定手法の構築をおこなう。同時に、触覚受容器の高次機能の科学的理解にむけた研究を進めていく。 指先触覚感度システムは、触覚呈示アクチュエータを駆動するドライバ・アンプおよびマイクロコンピュータ、液晶パネル表示器を電子基板上に一括実装し、乾電池4本で駆動するスタンドアロン型として構築する。触覚刺激は、SMAワイヤの振動強度、周波数、振動立ち上がり速度、各素子の駆動タイミング、駆動時間などのパラメータによって制御されるため、これら全てをマイコンによって実時間演算をおこなうものとする。指先触覚感度測定は、症状に応じた刺激パターンを手指に与え、これを患者に答えさせることにより感度測定をおこなう手法を実装する。また、若年から高齢に渡る多様な年齢層の健常者ならびに、様々な診断レベル、症状、治療歴、既往歴を持つ糖尿病患者に対して実証実験をおこない、システムの有効性を確認する。更に、振動パターンの物理的特性、被験者から得られる生理的反応データ、知覚される触覚との間の関連を定量的に解析して科学的意味づけをおこない、人間の高次触覚機能の定量的理解につなげていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度、複数の糖尿病専門病院において、糖尿病患者を被験者として指先触覚感度測定実験を行うため、スタンドアロン型触覚感度測定システムを構築する予定である。本システムの演算装置ならびにアクチュエータ制御装置を専用設計する必要があり、この経費を確保している。 次年度は主に、スタンドアロン型指先触覚感度測定システムの構築ならびに、触覚測定のための制御手法の確立に関する研究をおこなう。触覚ディスプレイ制御用マイクロコンピュータ基板の作製費、触覚ディスプレイ作製費、実証実験のための治具製作費と研究補助費を計上する。また、研究成果の発表のため、国際学会ならびに国内学会への参加費、論文投稿費を計上している。
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