研究課題/領域番号 |
24500552
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
青山 正人 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (40285424)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 医用画像診断支援 / コンピュータ支援診断 |
研究概要 |
左心室壁運動の解析のため,ノンパラメトリックな手法とパラメトリックな手法を,並行に検討している.両手法とも,まず一心拍20時相分の三次元心臓CT画像データから左心室壁(外壁,内壁とも)上の特徴点を抽出する. ノンパラメトリックな手法では,Dynamic Programming (DP) を用いて各時相の点群を対応付けることは,非常に計算コストが高いことから心拍が持つ周期性を利用し,高速な対応付けを検討,評価した.拡張末期を基準とし,各特徴点と収縮末期の特徴点間で最短距離関係にある点を対応付ける.こうすることで拡張末期→収縮末期→拡張末期という一周期の経路が最短となる経路を効率的に選択できる.それ以外の時相における対応点は対応付けた二点を結ぶ直線にもっとも近い特徴点を採用した.得られた対応関係から Free-form Deformation (FFD) を用いて心臓の変形を求めた.このように心拍が持つ特徴を利用した手法を用いることにより,DP より簡便,高速なだけでなく,誤差も比較的小さく抑えられることが分かった. パラメトリックな手法では,球面調和関数を用いて各時相の特徴点群から形状パラメータによる心臓形状表現を試みた.その結果,健常症例と心筋梗塞軽度,重度の症例間で形状パラメータに違いが現れることが確認できた.さらに従来との差別化を図るため画像データの形状パラメータ表現とその比較のみに留まるのではなく,症例間でパラメータを入れ替えることも検討した.これは例えば「健常」症例が病気になった場合の心臓の動きを実際の「心筋梗塞の」症例の形状パラメータに基づきシミュレーションすることに相当する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を要約すると心疾患の診断に大切な左心室壁運動の表現に FFD を用いる「ノンパラメトリック」な手法と球面調和関数を用いる「パラメトリック」な手法という着眼点が異なる二種類の工学的手法を採り入れ,客観性や再現性が高い壁運動の追跡やモデル表現を目指すことである. ノンパラメトリックな手法では,心拍の周期性という対象データの特性に着目した方法(周期性に基づく直線的探索)により DP に対して高速に追跡を行い,追跡結果から FFD による形状変化を求めることができた.FFD 結果も DP に近い誤差でおさまっていることも確認でき,簡略化手法としては利用できる可能性があることが分かった. パラメトリックな手法では,各時相における左心室の外壁と内壁を形状パラメータに基づいて表現することができ,形状パラメータ値の意味づけについて検討を始められる準備まで整えることができた.また健常症例と心筋梗塞症例間で形状パラメータを入れ替えることを試みた結果,主観的ではなく実症例データに基づいて,健常症例と心筋梗塞症例間の壁運動の違いをシミュレーションできる可能性も示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
ノンパラメトリックな手法の方は,拡張末期,収縮末期間の対応点を結んだ直線上で経路探索を行った.処理時間,計算機環境に依存するが,上記の直線的経路探索と DP を統合し,評価結果に基づいてノンパラメトリックな手法に用いる対応点探索手法を固めていく.さらに定量情報を利用者(最終的には臨床医の利用を想定)に大きな負担を課すことなく抽出できるように必要なツール開発についても検討を初めてプロトタイプシステムとしての構築に着手していく. パラメトリックな手法の方は,基底が決まっている球面調和関数に対して,データに基づいて基底が決まる主成分分析との比較を試みることを考えている.球面調和関数で基底が決まっていることの利点,欠点を,研究目的であるモデル表現の観点,つまり健常症例とそれ以外の症例を形状パラメータで区別できるのかどうか,あるいは病変箇所の推定に利用できる可能性はあるのかないのかといった観点を中心に整理し,比較を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
計算機の性能に対する価格は日々低下している.既存の計算機環境において,物品を購入しなければ,研究が実施できない状況ではなかったことから購入を見送っていた結果,生じた状況である.引き続きアルゴリズムの工夫や手元で使用可能な計算機環境は最大限有効に利用しながらも,必要な物品や異なるオペレーティングシステムへの対応などを検討する際に発生する必要物品は適切なタイミングで購入する予定である. また25年度より電子情報通信学会の医用画像研究会の研究専門委員になったこともあり,これまで以上に研究遂行上必要な研究会などへの参加,情報収集などに必要な旅費としても有効に利用する計画を立てている.
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