研究課題/領域番号 |
24500553
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
永竿 智久 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20245541)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオメカニクス |
研究概要 |
肺・胸郭の腫瘍切除の結果、胸郭にはさまざまなパターンの欠損が生じうる。本研究はこうした欠損を類型化した上、それぞれの欠損パターンに対して、どのような手術を行えば最も高い換気機能を得ることができるのかを、胸郭の有限要素モデルにおける呼吸運動のシミュレーションを用いることにより、定量的に評価・解明することを目的として計画された。本研究の計画は、大きく2段階により構成される。まず胸郭の呼吸運動を正確に再現する力学的シミュレーションシステムを構築する。そして次の段階として、臨床上遭遇しうる各種の胸壁欠損の類型ごとに、考えられる方法で再建した場合に予測される換気量を、開発したシステムを用いて計算しつつ、最大の換気量を与える再建方法をベストと考え、類型別にまとめあげる。平成24年度においてはこのうちの第1段階をほぼ達成した。具体的に言うと患者の胸郭CTデータから、対応する有限要素モデルを作成する方法を確立した。まず患者のCTデータを3次元グラフィックソフトウェアであるSimplewareを用いてモデル化し、さらに作成したモデルを、別の3次元グラフィックソフトウェアであるFree Formを用いて処理する。胸骨や肋骨の一部を除去すれば、臨床的に遭遇する各種の胸郭欠損を再現することができる。こうして作成された胸郭欠損モデルに呼吸筋を模した負荷を作用させれば、その胸郭がどの程度の呼吸機能を有するのかを計算することができる。このように確立した評価システムを用いることにより、胸郭にいかなるタイプの欠損が出現すると、その程度はどの程度低下するのかにつき基本となるデータをまとめ上げ、一部の成果を日本形成外科学会学会誌に発表した(永竿智久他 胸郭の各種欠損が胸式呼吸の機能に及ぼす影響と、それを再建する意味についてのバイオメカニクス研究 日本形成外科学会誌 32巻11号 p803-818, 2012)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画は、大きく2段階により構成される。まず胸郭の呼吸運動を正確に再現する力学的シミュレーションシステムを構築するプロセスである。次のプロセスとしては、各種の胸壁欠損の類型ごとに、考えられる方法で再建した場合に予測される換気量を、開発したシステムを用いて計算しつつ、最大の換気量を与える再建方法をベストと考え、類型別にまとめあげることである。平成24年度においてはこのうちの第1段階をほぼ達成した。すなわち患者CTに基づいて3次元力学モデルを作成し、個別の胸郭がどの程度の呼吸機能を有すのかを評価することができるようになった。本年度における進捗の証左として、確立した評価システムを用いることにより、胸郭にいかなるタイプの欠損が出現すると、その程度はどの程度低下するのかにつき基本となるデータをまとめ上げ、一部の成果を日本形成外科学会学会誌に発表することができた(永竿智久、清水雄介、畑野麻子、貴志和生 胸郭の各種欠損が胸式呼吸の機能に及ぼす影響と、それを再建する意味についてのバイオメカニクス研究―胸郭再建のプロトコル作成に向けて 日本形成外科学会会誌 第32巻11号 pp803-818, 2012)。ゆえにまずまずの進捗状況であると考えている
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今後の研究の推進方策 |
今後は、胸郭に各タイプの欠損が生じた場合を想定し、そのそれぞれの状況においてどの程度の呼吸機能が期待できるのかを有限要素力学計算を用いて解明し、かつそれを系統的に整理して行く予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
3次元有限要素モデルの作成方法ならびに、作成されたモデルを用いた胸郭の呼吸機能の評価方法についてはほぼ確立された。今後は胸郭にどのような欠損が生じると、どの程度呼吸機能が低下するのかを定量的に評価する。そして胸郭欠損のタイプの類型化を行い、欠損タイプー呼吸機能の対応表を作成してゆく予定である。また、得られた成果を国内・国外の学会において発表してゆく予定である。平成24年度に繰越金が生じた理由は、研究者の自主努力により当初予定していた解析に関する問題点が大幅に解決されたためである。胸郭の運動パターンを有限要素シミュレーションを用いて解析するためには非線形解析に関する高度の専門知識が必要であるゆえ、当初は外部委託をしようと考えていた。しかし研究グループにおける技術水準の向上に伴って外部委託をせずとも解析が可能となり、外部業者(サイバネットシステム)に対して支払いを予定していた技術サポート料を繰り越すことができた。この分の繰越額は平成25年度以後における実験機器の購入・国内外における学会発表の旅費・さらに高度なバージョンの解析ソフトウェアのライセンス費用として支払いを予定している。
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