研究課題/領域番号 |
24500553
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
永竿 智久 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20245541)
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キーワード | 呼吸 / バイオメカニクス / 有限要素法 / シミュレーション / 腫瘍 |
研究概要 |
胸壁に発生した腫瘍や、肺や縦隔に発生して胸壁に侵潤した腫瘍を切除した結果、胸壁の一部に欠損が生じる場合がある。胸壁は拡張と収縮を反復することにより呼吸を司る重要な器官であるので、その一部に欠損が生じると呼吸運動は失調を来す。失調の程度は、胸壁のどの部分に欠損が生じるのかに応じて異なる。すなわち、鎖骨付近の上部胸壁に欠損が生じるのか、季肋部周辺の下部胸壁に欠損が生じるのかにより異なりうるし、あるいは胸骨付近の前部の欠損か、脊椎付近の後部の欠損かによっても相違を見せる。このような、胸壁に生じる欠損の局在部位と、その欠損が呼吸機能に及ぼす影響の関係を、定量的に評価することを目的として本研究は立案された。 本研究のプロセスは2段階に概括される。第一段階においては、実際のヒトの胸郭の形態ならびに呼吸ダイナミクスを正確に再現する3次元コンピューターシミュレーションモデルを作成する。第二段階においては、こうして作成されたモデル胸郭上に、臨床上考えられる種々のタイプの欠損を作成し、欠損の局在と呼吸機能が低下する程度の相関につき、力学解析を用いて解明する。このプロセスの内、第一段階については平成24年度までにほぼその技術を確立したので、平成25年度には主として、欠損が胸郭上に作成された場合に、胸壁の呼吸運動機能はどの程度減弱するのかという第二段階に取り組んだ。胸壁欠損の局在パターンには、欠損する肋骨の本数および、胸郭上の位置に応じて無数の組合せが存在する。これらの組合せのすべてに対してシミュレーション評価を行うことは困難である。ゆえに本年はまず、「肋骨が4本欠如した場合」を想定して、欠損の局在―呼吸機能の関係を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行する上で、克服しなくてはいけない道標は3点存在する。第一はヒト胸郭の形態を正確に再現する3次元CADモデルを作成する技術を確立することである。この点については平成24年度前半にほぼ完成をみている。第二は作成した呼吸運動シミュレーションモデルを「動かす」技術である。すなわち胸郭の呼吸運動を再現することが本研究においては必要となるが、このためには単純に正確な形態の胸郭モデルを作成するだけでは駄目で、胸郭に付着する呼吸筋―横隔膜・内外肋間筋―の解剖学的構造も正確に再現し、なおかつそれらを収縮させて胸郭が運動するシミュレーションを行わなくてはいけない。平成25年度はこの点に力が入れられた。この結果、これら呼吸筋がどの程度収縮すると胸郭の体積がどのように変化するのかが算出可能なシステムを確立することができた。この到達度は本来予定していたものとほぼ一致している。ゆえに現在までの達成度は順当であると自己評価する。第三の道標は胸郭の欠損を類型化し、それぞれに応じた胸郭運動機能を調査することである。この結果を整理することにより、胸壁欠損パターンと呼吸機能の関係を示す臨床的指標を作成することが期待しうる。この点については平成26年度に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
胸郭の形態ならびに、呼吸に伴うダイナミクスを反映するモデリングシステムを作成する技術についてはほぼ確立された。ゆえに今後は、胸壁欠損のパターンと、その欠損が呼吸運動を低下させる割合につき定量的に評価を行い、臨床的に生じる可能性の高い欠損パターンが生じたときに、胸郭の運動機能は何パーセント低下するのかについて評価を行う段階に入る。特に臨床において問題となるのは胸骨の欠損であるから、胸骨の上部が欠損した場合;下部が欠損した場合;全部が欠損した場合と、いくつかの場合に分類し、それぞれの状況における呼吸機能の低下量を判り易く、具体的な形で評価する。たとえば胸郭欠損の部位―呼吸機能低下の関係を表として呈示することを目指す。 さらに本研究で当初解明を予定していた範囲を超えて、臨床上有用な情報が得られる可能性もある。本研究においては当初、呼吸機能の評価のみを念頭においていた。しかし研究を進めるうちに本研究において開発されたモデルを用いれば、先天性胸郭変形症の治療にも応用しうる可能性があることがわかってきた。すなわち、本研究で開発されたシステムを用いれば、胸郭に矯正装具を装着することによってその形を修正する、先天性胸郭変形疾患の治療結果予測につながりうる。この点についても臨床的実用性を追求してゆく。 なお、本年度の研究予算で若干繰越金が生じた。これは本年度に実施した内容は、コンピューターシミュレーションの技術開発を主体としたためである。この段階は実験消耗品費などの負担が少ない。すなわち未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて物品購入に充てる予定である。シミュレーションの結果に妥当性があるか否かの検証は、合成樹脂で作成した実体モデルを用いて行うが、このモデル作成ならびに実験機器には相当額の出費が予測される。繰り越し分はこれら物品の購入に充てる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究予算で若干繰越金が生じた。これは本年度に実施した内容は、コンピューターシミュレーションの技術開発を主体としたためである。この段階は実験消耗品費などの負担が少ない。すなわち未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて物品購入に充てる予定である。 シミュレーションの結果に妥当性があるか否かの検証は、合成樹脂で作成した実体モデルを用いて行うが、このモデル作成ならびに実験機器には相当額の出費が予測される。繰り越し分はこれら物品の購入に充てる予定である。
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