呼吸運動は胸郭を構成する各成分〈肋骨・肋軟骨・胸骨・および呼吸筋群〉の協調運動であるが、外傷や腫瘍切除の結果、胸郭に部分欠損が生じた場合にはこの協調運動が損なわれて呼吸機能の低下が生じる。胸郭に生じうる欠損のパターンは腫瘍や外傷の部位に応じて多岐にわたるが、どの部位にどのような大きさの欠損が生じると、どの程度呼吸機能が低下するのかに関して定量的な解析は過去に行われていない。臨床試験または動物実験モデルを用いてこのテーマを究明することが困難であることがこの原因である。本研究においては胸郭運動を正確に模したコンピューターシミュレーションモデルを作成し、そのモデルにおいて種々の胸壁の欠損を作成して機能評価を行うことで、胸壁欠損の大きさと部位が呼吸機能に与える影響について定量的に解明を行った。解析の結果、欠損が側方下部に存在する胸郭モデルにおいては、患側胸郭の換気量は、正常の片側胸郭の換気量の約40パーセント(38-45パーセント)になり、他の欠損タイプのモデルにおける換気量(62-88パーセント)に比して有意に小さくなることが確認された。側方下部に欠損を有する胸郭においては、他の部位に欠損を有する胸郭に比して低い換気機能を呈する。ゆえに、胸郭の側方下部に欠損が生じることが予測される臨床症例においては、欠損の大きさを最小限のものとすることが推奨されることが結論として得られた。
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