本研究では、脳卒中患者に対する治療法として用いられているミラーセラピー(Mirror therapy: MT)に電気刺激(Electrical stimulation: ES)を組み合わせ、一側上肢が映っている鏡からの視覚入力とそれに同期した電気刺激が、健常若年者、健常高齢者の脳皮質にどのような影響を及ぼしたかを機能的近赤外線スペクトロスコピー装置(functional near-infrared spectroscopy; fNIRS)を用いて検証した。 健常者若年者においては、MT+ESのタスクにおいて被刺激筋に一致する脳半球の縁上回が安静時と比較して有意に賦活した。一方、健常高齢者においては、MT+ESのタスクにおいて、被刺激筋に一致する脳半球の中心前回、中心後回、縁上回、上側頭回、角回、中前頭回が安静時と比較して有意に増加した。これらの結果は、鏡からの視覚入力とそれに同期した電気刺激が、運動観察と運動錯覚の効果によって脳皮質の賦活を促すとともに、若年者より固有感覚が低下している高齢者において、より広範囲に賦活されたことから、さらに固有感覚が低下した脳卒中患者では、運動観察と運動錯覚の効果によって機能回復を促すことを示唆する。 最終年度において、臨床使用が可能な電気刺激装置GD-611IVESを用いて、数名の脳卒中患者においてMT+ESの治療法を実施した。手関節背屈の随意収縮が促されることが観察され、本法が臨床場面において実現可能な治療法であると考えられた。
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