研究実績の概要 |
神経疾患における歩行障害の病態機序解明を目的とし、正常圧水頭症での歩行障害ときわめて類似した病態を呈する血管性パーキンソニズムに着目した。この病態では足がすくんで出せない状態、すなわちすくみ足もみられる。すくみ足は正常圧水頭症でもみられ、転倒頻度の増加を来し生活レベルの低下に直結する。白質病変を来した患者では、血管性パーキンソニズムを呈することが多い。 頭部MRIでの拡散強調画像の拡散性の定量評価を行い得られたデータと、肝要な臨床症状のひとつであるすくみ足との関連について解析し、論文を作成した。 頭部MRI上白質病変を呈した20人の患者を対象とし、すくみ足質問紙での評価スコア(freezing of gait questionnaire、 FOGQと略す)を取得した。さらに歩行分析を行い頭部MRIでの拡散強調画像を撮像し、異方性の強さの指標(fractional anisotropy, FA)、平均拡散能(mean diffusivity, MD), 軸方向の拡散係数(axial diffusivity, AD)、放射拡散係数 (radial diffusivity, RD)を計算し、神経束の空間統計学(tract-based spatial statistics, TBSS)による解析を行った。 全脳でのFA, MD, AD, RDはすべてFOGQと有意に相関した。局所的には、FOGQとFAでは運動前野直下の左上縦束、右脳梁、左大脳脚において負の相関を認め、一方FOGQとMDでは左放線冠と右脳梁において、またFOGQとAD, RDでは左放線冠において正の相関を認めた。 これらのことからすくみ足には神経回路を構成する種々の部位が多因子的にかかわることが証明された。 この研究は、歩行やそれに随伴するすくみ足についての病態解明を行ったものであり、極めて重要な知見が得られた。
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