研究課題/領域番号 |
24500580
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 宏喜 大阪大学, 臨床医工学融合研究教育センター, 特任准教授(常勤) (40335386)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人工視覚 / 皮質微小電気刺激 / 視覚野 / 多点電極 |
研究概要 |
本研究は、皮質刺激型人工視覚を実現するための最適な電気刺激パラメーターの探索や多点刺激電極を利用した新しい刺激手法の開発を動物実験により行うことを目的としたものである。 平成24年度は、まず標準的な刺激プロトコールのもとで、神経活動を持続させるのに、また空間局在化した神経活動を引き起こすのに最適な電流刺激パラメーターの探索を行った。ガラス電極を2/3層に刺入し、通常の連続トレイン刺激を用いて、周波数を8Hzから160Hzで変化させた。神経活動は、VSDイメージングシステムで行った。その結果、トレイン周波数が高いほど、持続的な神経活動が、また、空間局在化した神経活動が得られることがわかった。次に、同様の効果がより低い消費電力で得られるかどうかを検討するために、160Hzの刺激トレインを間欠的に行い、刺激期間と無刺激期間のデューティ比を0%から100%まで変化させたときの神経活動を計測した。その結果、デューティ比が20~40%程度にまで下げても、空間局在性が十分高く、また持続性の高い神経活動が得られた。 また多点電極による効率的刺激法を見出すために、ミシガン電極を刺入することを行ったが、電極が脳組織を損傷したためか、神経組織を十分興奮させることができないケースが続いた。そこで刺入電極ではなく、表面に布置するタイプの平成電極で刺激する実験を行った。このタイプの電極を用いた場合、これまではmAオーダーの非常に強い電流を流さないと十分強い活動を引き起こせないと考えられてきたが、申請者は、高密度で電極点の小さな電極を用いた場合、100μAオーダーの電流で十分強い神経活動が得ることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に予定していた実験はほぼ完遂することができ、その成果の一部は平成24年8月の視覚科学フォーラム(埼玉医科大学)および9月の電気学会(電気学会)で発表報告した。その後平成25年度3月まで実験を重ね、10匹以上の動物から十分なデータを取得し、統計学的にも有意なデータを得ており、周波数が高いほど、持続的な活動が得られること、また空間局在化した活動が得られることを示す十分なデータを取得した状態になる。また、デューティ比を下げて間欠的にすることで、少ない消費電力で、神経活動を十分持続できたこと、空間局在化した刺激をなしえたことは、重要な知見であると考えられ、現在その成果を論文としてまとめている段階である。 さらに平成25年度に計画していた多点電極を用いた実験の予備実験を平行して行った。その結果、当初予定していたフォーク型多点電極であるミシガンプローブによる刺激では、神経組織を十分刺激できないという問題が発生した。原因としては、VSDでは神経活動を十分感度よく検出できていない可能性もある。別の可能性としては、この実験では、電極を皮質深層まで刺入するため、神経組織の損傷が生じている可能性がある。 一方で、平面タイプの電極を皮質表面に布置して刺激するという予備実験を行ったところ、効率よく視覚野を電気刺激しうるという新規のデータを得ることができた。後者の方法は、非侵襲的な手法でもあるので、今後非常に追求していく価値のある刺激手法と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後多点電極を用いた効率的刺激プロトコールの検討に進んでいく予定である。上述のとおり、当初予定していたミシガンプローブによる刺激は、前回行った予備実験ではうまくいっていない。1つの可能性は、VSDでは神経活動を十分感度よく検出できていない可能性もある。そこで、申請者が24年4月1日に移動した京都産業大学において、電気活動計測システムを立ち上げていく。膜電位感受性色素イメージング(VSDI)の計測も、申請者がこれまで所属してきた大阪大学臨床医工学融合研究教育センターにて行っていく。ミシガン電極を深く刺入したために神経組織に損傷が生じた可能性もある。こちらは実験を繰り返し、皮質を損傷しないような条件を探っていく。 同時に、表面タイプの電極を用いれば非侵襲的かつ効率的に、視覚野を電気刺激しうる可能性を見出した。今後はこのデータを多数集めることも行い、どのような神経応答が得られるのか十分特徴づけていく予定である。とくに、どの程度まで電流強度を落とせるのか、あるいは、空間局在化した応答が得られるのかを分析していく。測定は、VSDIで行うとともに、細胞電気活動の直接計測も行っていく予定である。 最後に、表面刺激を行ったときの視覚皮質の活動伝播の神経ネットワークシュミレーションも行っていく。現在観測している現象を、神経細胞レベル、ネットワークレベルでの知見と結びつけながら理解していくためには、このようなシュミレーションによるアプローチが不可欠と考えられる。視覚皮質の細胞ネットワークモデルを構築し、電気刺激に対する神経活動をシュミレーションで予測できるよう、実際のデータの検証を交えながら、より現実的なモデルの生成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年4月から8月までの間に、京都産業大学においてラットを用いた電気刺激システム、電気活動計測システムをセットアップする予定である。その際、マニピュレータ-部品、固定器具を購入するために150万円の費用を要する。その後データ取得に入り平成26年度3月までに十分な数のデータを集める予定である。電極は手術消耗品として20万円を使用する。ミシガンプローブで電気刺激した場合、あるいは脳表面電極で刺激した場合それぞれについて検討を行っていく。 皮質ネットワークをモデル化し、コンピューターシュミレーションで検討していくためにコンピュータを2台を30万円(1台15万円)で購入する。平成25年4月から8月までにこのセットアップを完了し、平成26年3月までに十分な数のデータを集めるようにする。
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