本研究は、皮質刺激型人工視覚を実現するための最適な電気刺激パラメーターの探索や多点刺激電極を利用した新しい刺激手法の開発を動物実験により行うことを目的としたものであり、最終年度は以下の研究を行った。 第1に、前年度に引き続き、持続性があり空間局在化した神経活動を引き起こすのに最適な電流刺激パラメーターの検討を継続した。これまで以上に詳細な解析を行うことで、周波数が高いほど、持続的かつ空間局在化した神経活動が得られるという結果を、より強固なものとした。 第2に、多点電極による効率的刺激法を見出すために、皮質刺入型タイプであるミシガン電極を利用した実験を数回実施したが、電極が脳組織を損傷し神経組織を十分興奮させることができなかった。そこで刺入タイプではなく、表面に布置するタイプの平面電極に切り替えて実験を行った。このタイプの電極を用いる場合、従来mAオーダーの強い電流が必要と考えられてきた。しかし、今回、より高密度で小面積の刺激点をもつ新型の平面電極を用いることで、百μAオーダーの低電流で十分強い神経応答を誘発できることをVSDイメージング法で見出した。刺激に対する神経応答の強度や時間経過をより直接的に評価するために、神経活動をマルチユニット神経活動記録法で捉える研究を、最終年度の後半に行った。このデータの詳細な解析は現在行っている。 第3に、人工視覚の生理学的基盤である視覚皮質の神経回路を詳しく調べる研究を行った。神経活動記録には新しいタイプの多点電極を用いて視覚皮質の広い範囲から一定密度で細胞活動を記録し、これに相互相関解析法を施して神経活動の同期状態を解析した。その結果、様々な時間スケール、空間スケールでの神経活動同期を皮質の層ごとに記述することに成功し、人工視覚の基盤にある神経回路の理解をより深めることができた。
|