研究実績の概要 |
本研究の目的は, 地域病診連携システムが慢性閉塞性肺疾患の予防と治療を可能にすることを明らかにすることである。 日本のCOPD患者は530万人と推定されているが,受診者は26万人少なく,多くのCOPD潜在患者が見逃されている.また,COPD早期発見についての報告はみられるが,確定診断後のフォローについて検証した報告は見当たらない.我々は,COPDの早期発見,診断,治療および介入を目標にCOPD対策事業を立ち上げ,COPDへの早期介入を前方視的かつ縦断的に行った.対象者は,2006年に長崎県松浦市に在住の50歳から89歳までの全住民8,878名である.対象者に簡易問診票および肺機能検査を実施してCOPD陽性者を抽出し,精密検査を実施して確定診断を得た.その後も適宜検診事業を継続し,新たなCOPD患者の抽出に努めた.さらには,毎年フォロー検診や呼吸器教室などを開催し,患者の健康維持をサポートした.その結果,2014年時点で256名がCOPDの確定診断を受け,COPD推定患者数の31%を抽出した.その重症度は,軽症から中等症であるStageⅠ・Ⅱが87.5%を占めた.さらに介入前は喫煙者の割合が77.1%であったが、2013年度は35.4%と低下した.対象者の一秒量の年間低下量は,21.2±41.2ml/yearと加齢の範囲内であった。またCOPDの認知度は,非介入地区が11.8%対して介入地区は24.2%と高く,認知度向上にも寄与した。さらに松浦市におけるCOPDの医療費は,松浦市を除く長崎県全体に比べ著しく低い値を示し,増加も緩徐だった.以上のことから,COPD病診連携システムはCOPD患者の早期発見および治療の効率を上げ,医療費の抑制に効果があることが示唆された. この成果を元に,この検診事業が全国各地に導入され,COPDの早期診断・早期治療に活用されることを期待している.
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