研究課題/領域番号 |
24500604
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (20204612)
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研究分担者 |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授(Professor) (00135691)
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キーワード | 神経障害性疼痛 / ミクログリア / エピジェネティクス / ヒストン脱アセチル化酵素 / ヒストンアセチル化酵素 / トレッドミル走 |
研究概要 |
本年度は、まず神経障害性疼痛(NPP)モデルマウスの疼痛反応をより正確に評価することを目的として、これまでの「Von Freyテスト」に加えて新たに「Plantarテスト」を取り入れた。坐骨神経部分損傷(PSL)を施したNPPモデルマウスのVon FreyとPlantarテストの閾値は有意に減少することを認め、神経障害性疼痛の主症状である機械的アロディニアと熱痛覚過敏の発症を確認できた。身体運動は神経障害性疼痛を緩和することが知られている。そこでNPPモデルマウスに走速度7m/min(低強度)で1日60分間の走運動を5日間連続して行わせたところ、これらのマウスに出現した疼痛反応は有意に軽減された。さらにこの鎮痛は高強度の走運動では起こらず、中等度(12m/min)と低強度の走運動で起こることも分かった。 走運動による鎮痛のメカニズムを明らかにするため、脊髄後角ミクログリアにおけるヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)とヒストンアセチル化酵素(HAT)の発現変化に着目し検討した。その結果、NPPモデルマウスの脊髄後角ミクログリアにはHDAC1発現が増加し、HATの一つであるCREB-binding protein (CBP)の発現は減少したが、走運動はミクログリアにおけるHDAC1発現の減少とCBP発現の増加を誘導した。これらの変化と一致してミクログリアには、アセチル化ヒストンH3K9の発現が増加した。さらに走運動は吻側延髄腹内側部(RVM)におけるpERK陽性ニューロン数を増加させることも分かった。 以上のように本年度の成果は、運動とくに低強度の走運動は神経障害性疼痛の緩和に有効であること、そして脊髄ミクログリアにおけるヒストンのhyperacetylationおよびRVMニューロンの活性化は、低強度の走運動がもたらす鎮痛効果に重要な役割を演じる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究目的は「神経障害性疼痛に対する脳・脊髄の適応反応」について明らかにすることであった。まず昨年度の「今後の研究の推進方策」に従い「神経障害性疼痛に対する脊髄後角ミクログリアでのエピジェネティク制御」について検討した。その結果、PSLを施したNPPモデルマウスの脊髄後角ミクログリアには 「①HDAC1発現の増加、②CBP発現の減少、そして③アセチル化ヒストンH3K9発現の減少」を認めた。これらの成果は本年度の研究目的を十分に達成したと評価できる。 さらに昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載した他の目的、すなわち「NPPモデルマウスに対する運動の介入効果」について、脊髄後角ミクログリアにおけるエピジェネティクな変化に着目して検討を進めた。その結果、脊髄後角ミクログリアには「①HDAC1発現が減少し、②CBP発現が増加することで、③アセチル化ヒストンH3K9発現が高められる」ことが分かった。RVMは脊髄上位において疼痛制御にかかわる重要な部位である。そこでこの領域に着目して走運動の効果を観察してみると、走運動を行わせたNPPモデルマウスの術側RVMには、pERK陽性ニューロン数の有意な増加が観察された。これらの成果も本年度の研究目的を十分に達成したと評価している。 以上のように本年度は「神経障害性疼痛に対する脳・脊髄の適応反応」を捉えるだけに留まらず、走運動が疼痛を緩和するメカニズムの解明をも含めた内容に発展できたことは、本年度の目的以上の成果を挙げることができたと考えている。しかし、昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載したもう一つの目的である「神経障害性疼痛に対する大腰筋の適応反応」に関する結果が得られていない。これは次年度に必ず取り組まねばならない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度のおもな研究成果、すなわち「①NPPマウスに発現した機械的アロディニアと熱痛覚過敏は低および中等度強度の走運動で緩和されること、②走運動による疼痛緩和には脊髄後角ミクログリアのhyperacetylationが重要な役割を演じること、さらに③RVMニューロンの活性化も走運動による疼痛緩和に影響を及ぼす可能性があること」が得られたことを踏まえて、次年度の推進方策として次の事項を予定している. まず「①神経障害性疼痛および走運動によるその緩和が大腰筋の形態、筋線維タイプおよび活性化マクロファージの機能種にどのような影響を及ぼすのか」については必ず取り組まねばならない。次に「②走運動によりRVMで活性化するニューロンの特性を明らかにする」ことである。そこでまずGABAあるいはその合成酵素(GAD65/67)の発現が、走運動で活性化したRVMニューロンに高まるかどうかについて検討したい。この結果は、走運動が疼痛を緩和する延髄レベルでのメカニズムの解明に一つの手がかりを提供できると考えられる。痛みに伴うマウスの情動変化をそれらの発声で捉える試みが注目されている。そこで③走運動による疼痛の緩和をマウスの発声の変化から検討することを考えている。この取り組みはマウスの疼痛の程度を客観的に捉える新たな方法を確立することにも貢献すると思われる。
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