[研究の目的]言語聴覚士が実施する構音障害のリハビリテーションの分野においては、いまだ臨床家の経験則に基づくところが多い。構音活動における疲労の要素は明らかにはなっていない。そこで構音障害における疲労の様相をその回復過程を明らかにすることを目的に本研究を計画した [方法] 1健常成人の構音動作における舌の疲労と回復過程について 2構音障害のある患者を対象に構音動作における舌の疲労と回復過程について 3構音訓練における改善と舌の疲労との関連性について 1と2に関しては、舌の口蓋に対する最大押しつけ圧の測定、疲労課題(最大舌圧の50%の力で20秒間舌を口蓋に押し付ける、無意味音節連続構音課題)、疲労課題前後の音響分析(破裂音におけるVoice Onset Time(VOT)の測定)および舌口蓋接触部位の測定(Win-EPG)、患者の官能評価を、ベースライン期、疲労期(疲労課題実施直後)、回復期(課題を実施しない休止期でベースライン期に戻るまで)の3期に分けて測定した。また、これらはリハビリテーション開始後、3か月、6か月の時点でも測定し経時的な変化を評価することとした。構音障害のある患者は、当院を受診、リハビリテーションを実施した患者を対象に、口腔がん、脳血管障害、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を原因疾患とする構音障害者とした。 [結果] 1健常成人では、簡単な無意味音節程度では舌の疲労は有意差がある程度には計測されなかった。2構音障害のある患者では、どの患者も健常成人と比べて有意に舌圧が低く、また、VOTが長く、EPGを使った舌口蓋接触部位の数が少なかった。また、疲労課題を実施後、ベースライン期に戻る時間が優位に長かった。さらに、舌がん、脳血管障害、PD、ALSではそれぞれ特有の疲労、回復過程が観察された。得られた結果をもとに構音訓練プロトコルを作成した。
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