研究課題/領域番号 |
24500619
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
前島 洋 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (60314746)
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研究分担者 |
金村 尚彦 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (20379895)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動学習 / GABA / シナプス / リハビリテーション |
研究概要 |
本研究では、運動療法時において、中枢神経系の主要な抑制系であるGABA抑制性入力の制御をGABA受容体アンタゴニストの投与を通して緩徐な興奮性と刺激感受性の増強を惹起し、その制御が運動学習とその背景となる皮質運動関連領野のシナプス機能修飾に与える影響について、実験動物学的に検証することを目的とした。このため、初年度の平成24年度において、実験動物としてマウスを対象に興奮毒性を呈しないGABA受容体アンタゴニストの投与適量の同定を行い、同量のGABA受容体アンタゴニスト投与による運動学習への効果について検証を行った。 成体マウスにおける実験的痙攣発作の導入法としてGABAA受容体アンタゴニストpicrotoxin(PTX)5mg/kgの投与を要することから、1mg/kgまでPTX投与量を段階的に増加させ、投与後の行動分析を行ったところ、対象マウス全てにおいて痙攣発作を含む異常行動は認められなかった。このため、PTX投与量を1日1mg/kgとし、PTX投与下における運動機能試験を実施した。 PTX投与群(9匹)におけるrotor rod testの持続時間は対照群(9匹)の約2倍となり有意なPTX投与の早期効果が認められた。その後、10日間のPTX投与下におけるトレッドミルを用いた走行運動介入を行い、各種運動試験に対する転移運動学習への効果を検証したところ、incline testにおけるPTX群の耐久角度は対照群よりも有意に大きく、PTX投与による効果促進が認められた。Rotor rod testについてもPTX群の耐久時間は対照群の1.5倍となり、効果促進の傾向は認められた。以上の所見より、PTXの低濃度投与によるGABAA抑制性入力の制御は運動学習促進に対する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度において、低濃度GABA受容体投与による緩徐な興奮性と刺激感受性の増強を促すためのGABA受容体アンタゴニストの低濃度投与量を同定することを目的としていた。このため、GABA受容体アンタゴニストの投与下におけるマウスの行動分析、運動分析に加えて採取脳サンプルの組織科学的、生化学的分析を計画していた。一方、GABA受容体アンタゴニスト投与が本研究の目的の基盤となる運動学習に対して実際に効果を有するのかについて、組織科学的、生化学的実験に着手する前に確認する必要が生じた。 このため、行動分析に基づくGABA受容体アンタゴニスト投与下における運動学習促進に関する行動分析を先行して実施したたため、組織科学的、生化学的分析については脳サンプルの採取までに留まった。この点はは当初の予定よりも遅れている。 一方、GABAA受容体の複数投与量の検証により、行動分析上、問題を伴わない投与量の同定に至った点については、概ね予定通りに実施されている。 更に、平成25年度以降に予定していたGABAA受容体投与下における運動学習の促進に関する行動分析の一部を先行して実施し、その効果を示唆する行動分析上の所見を得たことにより、本研究実施の基盤的意義を確認するに至った。安定した投与量の同定とその投与下における運動学習促進を確認するに至った点において、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
マウスを対象に前年度において設定したアンタゴニスト投与下における運動介入を行い、複数の運動機能試験に及ぼす運動学習転移について行動分析学的に解析する。それに伴う皮質運動関連領野の後シナプス膜における神経受容体を取巻く可塑的修飾について組織科学的、生化学的手法により解析を進める。 GABA受容体アンタゴニスト非投与の対照群との比較により、GABA抑制系の減弱による運動学習とシナプス機能修飾への効果を明らかにする。平成25年度は、成体マウスをGABA受容体アンタゴニスト投与の有無・運動介入の有無の2要因により4群に分類する。平成24年度に同定のpicrotoxinの投与量に基づき、10日間のpicrotoxinを投与後、引き続きpicrotoxin投与下にて運動介入を10日間行う。運動介入としてトレッドミルを用いた汎用的な実験動物の運動に変更採用し、運動介入前後において、1)ローターロッド試験、2)ビームウォーキングテスト、3)incline test、4)ぶら下がり試験の4項目の運動機能検査を行い、走行運動介入が他の運動機能試験に与える影響(運動学習転移)について検討する。 所定の行動分析終了後、屠殺し全脳を採取し、組織科学的実験および生化学的実験のサンプルとする。組織科学的分析として、皮質運動関連野を対象にΔFosB、c-Fos抗体を用いた神経活動性の定量を行う。生化学的分析として、western blottingによるグルタミン酸受容体(NMDA受容体、AMPA受容体)のリン酸化とそれに伴うpost-synapseへの集積、シナプス数への影響等の可塑的変化を定量する。更にリアルタイムPCR法に基づく各種神経栄養因子とその受容体、グルタミン酸およびグルタミン酸受容体発現の定量を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度において、平成25年度以降に予定していた行動試験の一部を先行して実施したため、GABA受容体アンタゴニストpictotoxin投与による脳シナプス修飾に関する組織科学的、生化学的実験は脳サンプルの採取に留まった。このため、平成25年度において前年度の残額を用いて、同サンプルを用いた組織科学的、生化学的実験を併せて実施する。即ち、Nissl染色およびLive/Death viability Cytotocxity Assay kitを用いた蛍光染色により、皮質運動関連領野を対象にpicrotoxin投与による神経細胞のダメージへの影響を定量する。併せて、神経活動指標として神経活動に依存して発現するΔFosB、c-Fosの抗体を用いた免疫染色により、神経活動の局在と定量を行う。本年度請求の研究費については、当初の予定通り上記の平成25年度の研究計画の実施に対して用いる。
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