研究課題/領域番号 |
24500625
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
渡辺 正仁 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70084902)
|
研究分担者 |
森 禎章 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70268192)
山路 純子(田代純子) 大阪医科大学, 医学部, 講師 (40340559)
山本 真紀 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (60240123)
廣島 玲子 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 准教授 (40404777)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 骨格筋 / ミオシン重鎖 / HSP-70 / IGF-1 / IL-6 / La3+ |
研究概要 |
長期臥床により骨格筋は廃用性萎縮を生じ、運動負荷を行うと骨格筋量が回復する。骨格筋の増殖・肥大に関わる因子としてIGF-1やIL-6等が報告されているが、その細胞内機序について完全に明らかにされているとは言いがたい。そこで本研究では、廃用性萎縮から早期回復を促す因子を検討する目的で、ラット筋芽細胞由来のC2C12細胞を2%FCSを含んだ培養液(D-MEM)中にて培養することで、筋芽細胞より骨格筋細胞へと分化させ、分化後の細胞を用いてリアルタイムPCR法によりミオシン重鎖タイプI(MHC I)、熱ショックタンパク70(HSP70)およびインターロイキン-6(IL-6)のmRNA発現レベルを測定し、コントロール条件と培養液に薬剤を添加した条件を比較した。 2%FCS含有培養液にIGF-1を添加すると、IL-6のmRNA発現レベルのみがコントロール条件に比べて有意に上昇し、MHC IとHSP70のmRNA発現レベルは有意に低下した。次に、IL-6を培養液に添加すると、MHC I、HSP70およびIL-6のmRNA発現レベルがコントロール条件に比べて有意に上昇した。さらに、La3+を培養液に添加すると、MHC I、HSP70およびIL-6のmRNA発現レベルがコントロール条件に比べて有意に上昇した。La3+は細胞内でタンパク脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを活性化することが知られているため、細胞外液に投与したLa3+がCa2+透過性チャネル等を介して細胞内に流入し、カルシニューリンを活性化することでこれらのmRNA発現量が増加する可能性が示唆された。 以上より、分化したC2C12細胞におけるMHC IとHSP70のmRNA発現レベル増加には、IL-6およびLa3+の投与が関与しており、IGF-1の投与は関与していないことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、分子生物学的手法を用いて骨格筋細胞増殖・肥大過程の細胞内機序を明らかにすることにより、廃用性筋萎縮からの早期回復を促す因子を見出すとともに、実験動物を用いた応用実験までを行うことである。 我々の学部は平成23年4月に新設され、実験設備もまったく無い状態からのスタートであり、平成23年度は学部の予算を用いて少しずつ実験機器の購入とセットアップを行ってきた。平成24年度に本申請にかかわる研究がスタートしてからも、実験設備は十分なものとは言いがたく、本申請にかかわる補助金を用いて機器の購入を行い、現在もセットアップを行っている段階である。このように、本年度は本大学において行える実験が限定されているため、研究分担者の所属する大学の設備を一部利用して、実験を行っている。 本年度は上記の如く、骨格筋細胞におけるMHC I、HSP70、IL-6のmRNA発現量増加には、従来骨格筋増殖・肥大因子として重要視されてきたIGF-1ではなくIL-6がより重要な因子であり、細胞外に投与したLa3+もこれらのmRNAの発現量増加を生じさせることを見出した。この結果は本年度2回にわたり学会発表を行っている。したがってここで得られた研究成果は、現有の研究体制が不備であるにもかかわらず、実験開始初年度としてはまずまずの成果が得られたものと考えている。次年度は実験設備を含む実験環境を早急に改善し、より効率の良い研究体制を整える予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、まずLa3+の細胞外投与によりMHC I、HSP70、IL-6のmRNA発現量が増加するという知見をもとに、La3+の投与がどの様な過程を経てこれらのmRNA発現量が増加するのかを検討する。前述の如く細胞内に流入したLa3+はCa2+依存性タンパク脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを直接活性化することが知られている。そこで、細胞外へのLa3+の投与による上記のmRNA発現量の増加がカルシニューリン活性化によるものであることを確認するために、細胞外にニフェジピンやSKF96365などのCa2+透過性チャネル阻害剤を加えた上でLa3+を投与し、La3+によるmRNA発現量増加が減弱するかを確認する。これによりmRNA発現量増加が減弱した場合には細胞内にLa3+が流入した可能性が高いため、膜透過性カルシニューリン阻害剤であるFK506やサイクロスポリンを細胞外に加えた上でLa3+を投与し、La3+によるmRNA発現量増加が減弱するかを確認する。これによりmRNA発現量増加が減弱した場合には、細胞内に流入したLa3+が直接カルシニューリンを活性化した可能性が示唆される。これに加え、La3+以外のCa2+非依存性カルシニューリン活性化剤の作用も併せて検討したいと考えている。 また、同時に実験動物(ラット)に後肢懸垂を行うことで廃用性筋萎縮を生じさせ、その過程ならびに回復過程に対するIL-6およびLa3+の作用を検討する。具体的には、実験動物の後肢懸垂を行う前にIL-6およびLa3+を骨格筋に直接投与することにより、廃用性筋萎縮の程度が緩和されるのか、また、廃用性筋萎縮後にIL-6およびLa3+の投与を行うことで、エクササイズ等による廃用性筋萎縮からの回復が促進されるのかを実験する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究分担者の森 禎章については、次年度国際生理学会(IUPS2103:バーミンガム)において演題が採択されており、本申請に関わる研究を発表するため、その旅費の一部として本年度分補助金を使用する予定である。 また、研究分担者の廣島玲子に関しては、次年度に後肢懸垂による廃用性筋萎縮を生じた動物モデル(ラット)を用いて、IL-6およびLa3+をあらかじめ骨格筋に直接投与することにより廃用性筋萎縮の程度が緩和されるのか、さらに廃用性筋萎縮後にIL-6およびLa3+の投与を行うことで、エクササイズ等による廃用性筋萎縮からの回復が促進されるのかを実験する予定である。この実験ではmRNA量を測定するとともに蛋白質量も測定する。これらの実験を円滑に遂行させるために、本年度の分担金を使用する予定である。
|