研究課題/領域番号 |
24500630
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
水谷 雅年 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (30108170)
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研究分担者 |
小橋 基 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (80161967)
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キーワード | 嚥下 / 嚥下障害 / 満腹物質 / 摂食 / GLP-1 |
研究概要 |
本研究の目的は嚥下障害者の嚥下を改善するための治療法の有効性をテストする簡便なモデルを考案することである。若年健常者を使って24年度は食事によって嚥下遅延が起こることを明らかにした。25年度は食事摂取によって引き起こされる嚥下遅延に関与する生理的要素を検討した。市販の弁当、ブドウ糖溶液、無糖ミルクティーで作った寒天、無糖ミルクティー液を摂取してもらい、それぞれ摂取30分前、直後、30分後、2時間後の計4回嚥下テストと血糖値測定を行った。その結果、弁当やブドウ糖溶液の摂取では、血糖値の上昇は摂取後2時間後まで続くが、嚥下遅延は弁当摂取後でのみ見られた。また無糖ミルクティーで作った寒天とミルクティー液では血糖値の変化はなく、嚥下遅延は寒天の方でのみ起こった。これらの結果から食事による嚥下遅延は血糖値の上昇より、胃の伸展によって引き起こされているものと思われる。 一方、麻酔下ラットでの研究では、24年度は血糖下降作用をもつとともに満腹物質様作用を示すGLP-1(glucagon-like peptide-1)の第4脳室内投与により嚥下頻度が減少し、初回嚥下の潜時が延長することを明らかにした。25年度はGLP-1の作用部位について検討した。孤束周辺の嚥下起動神経群(いわゆる嚥下中枢)へのGLP-1投与では、嚥下頻度や初回嚥下潜時に変化は認められなかった。一方、延髄正中部(最後野、交連部及びその周囲の孤束核を含む部位)へのGLP-1投与により嚥下頻度減少と初回嚥下潜時延長が観察された。また、GLP-1アンタゴニストを同部位に前投与するとGLP-1投与の嚥下に及ぼす効果は消失した。以前の研究で摂食亢進ペプチドのオレキシン-Aは、この部位の交連部に作用することが明らかになっている。そこで交連部を電気焼灼したラットにGLP-1を投与したが、嚥下に及ぼす作用に変化はなかった。従って、GLP-1は最後野もしくはその周囲の孤束核に作用すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常人被験者で行う当初研究実施計画はほぼ達成できた。26年度行う予定の自律神経と満腹状態や香りとの相関を解析するために必要となる自律神経指標の検討を行ってきた。これは昨年度加速度脈波計測システム(TAS9 view)を購入し、交感神経活性を上げる香り(アロマ)の検討、副交感神経活性を上げる香りの検討を行っている。カプサイシンの嚥下遅延改善効果の検討についても予備実験を始めている。 動物実験の方も当初研究実施計画通り、満腹物質様作用を示すGLP-1を用いて、嚥下の抑制作用を示す作用部位の同定まで進展していて順調である。
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今後の研究の推進方策 |
健常人で行う実験では、嚥下障害患者の嚥下能を著明に改善させるといわれているカプサイシンとブラックペッパーの香りを健常人嚥下遅延モデルへの適応を行う。カプサイシンシート、ブラックペッパーの香りを与えて、若年健常被験者においても満腹時の嚥下遅延を改善するかどうかを確認し、モデルの有用性を示す。動物実験においては、嚥下抑制作用を起こすGLP-1の作用部位の限局する実験を推し進めると同時に摂食亢進ペプチドとの相互作用について検討を行う。また嚥下能を改善させるカプサイシンやブラックペッパーの香りがどの部位に働いて、嚥下遅延の改善を起こしたのかを調べる。嚥下中枢の神経活動を電気生理学的に記録して咽頭や喉頭部のTRPV1受容体の関与を検討する。 嚥下能の変調と自律神経指標の検討:加速度脈波計測システムを使って摂食前後の自律神経指標の変化、カプサイシンやブラックペッパー作用時の自律神経指標の変化を記録し、嚥下変調に自律神経の関与を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ラット動物実験において、GLP-1の延髄正中部付近に注入によって引き起こされる嚥下抑制効果は、注入部位に含まれる最後野、孤束核交連部、最後野周辺部孤束核の破壊実験の結果から、GLP-1は最後野周辺部孤束核に作用することが明らかになった。一方、摂食亢進ペプチドのオレキシンAの作用部位である孤束核交連部破壊によりGLP-1の作用が増強される。これらのことから、摂食亢進ペプチドが飽食ペプチドの作用を抑制している可能性がある。これらの相互作用を明らかにする必要が生じた。そのため先端径30μmの市販の微小ガラス管を使う必要が生じ、本ガラス管および注入に必要な物品の経費を次年度に繰り越した。 理由の項で述べた様に、摂食亢進ペプチドと飽食ペプチドの相互作用を明らかにするために、摂食亢進ペプチドおよび微量注入用ガラス管を購入して、研究を行う。
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