研究課題
1.咀嚼が脳血流に及ぼす効果とその神経性機序を、動物を用いて調べた。ペントバルビタール麻酔下のラットにおいて、咬筋活動の出現に伴い、大脳皮質血流が増加することがわかった。体動を伴わない咬筋自発的活動の場合には、脳波・血圧・大脳皮質血流の増加はわずかであった。咬筋自発的活動に加え体動も起こる場合には、脳波低振幅化と昇圧を伴って、特に著しい大脳皮質血流増加反応が見られた。体幹部を受動的に動かす非侵害性体性感覚刺激を加えると、脳波低振幅化とわずかな咬筋活動に伴い、大脳皮質血流が著しく増加した。2.マイネルト核から大脳皮質に投射する血管拡張神経の関与を調べるため、大脳皮質へ投射するマイネルト核ニューロン活動を同定して記録した。自発的運動あるいは体性感覚刺激に伴う大脳皮質血流の増加の際には、マイネルト核ニューロン活動頻度の増加が見られた。マイネルト核ニューロン活動応答の時間経過は、大脳皮質血流増加反応に約2.5秒先行した。この潜時は、マイネルト核を電気刺激した際の血流増加反応の潜時と一致する。大脳皮質血流増加は、一側マイネルト核への、ムシモール注入による神経活動抑制あるいは神経毒(192-IgG saporin)注入によるコリン作動性ニューロンの選択的破壊、により減弱した。3.中枢からの運動指令(セントラル・コマンド)の関与を調べるため、人工呼吸下で非動化し、三叉神経運動核の咬筋運動ニューロン活動と大脳皮質血流との関係を調べた。咬筋運動ニューロン活動に伴い、大脳皮質血流増加が見られた。4.以上の事実から、運動時の大脳皮質血流増加反応は、マイネルト核に起始するコリン作動性ニューロンの活動亢進によって引き起こされることが示された。さらにその神経経路には、セントラル・コマンドと運動によって生じる体性感覚刺激の両者が関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通りに、咀嚼筋の活動と大脳皮質局所血流、全身血圧を同時記録し、咀嚼筋の自発活動に伴う各パラメータの変化の特徴を詳細に解析してその時間的関係を調べることができた。筋活動に伴いマイネルト核が活性化されることを明らかにした。筋活動に伴う脳局所血流の変化に前脳基底部マイネルト核が関与する可能性を、マイネルト核の局所的神経細胞活動抑制や選択的破壊、マイネルト核の神経細胞活動の記録から明らかにした。マイネルト核神経活動と咀嚼筋活動との時間的関係の解析などから、中枢司令(セントラルコマンド)と末梢からの求心性情報の寄与を明らかにした。
1.麻酔薬の影響を確かめるため、一部の動物では意識下で調べ、麻酔下での結果と比較する。2.自発的筋活動の他に、脳内(咀嚼運動を誘発する中枢)の電気刺激による筋活動の誘発も試す。3.マイネルト核の神経興奮抑制により、大脳皮質において血流反応のみが影響を受けるのか、神経活動の反応の変化を伴うのか明らかにするため、大脳皮質の神経細胞の活動についても調べる。大脳皮質局所神経活動の測定フィルターの設定を変えることで、local field potentialと、multi unit activityを同時に記録する。4.咀嚼筋活動とマイネルト核をつなぐ脳内神経回路を明らかにする。マイネルト核に逆行性トレーサーを注入し、大脳皮質咀嚼野、三叉神経中脳路核などに順行性トレーサーを注入し、逆行性および順行性の各トレーサーで標識された神経突起同士のシナプスをレーザー顕微鏡下で観察する。見つからない場合には、咀嚼に伴い活性化する脳領域を神経活動マーカーであるc-Fos やERKの組織化学的検出によって調べ、手がかりとする。咀嚼筋活動とマイネルト核をつなぐシナプス部位が形態的に明らかとなったら、電気生理と神経薬理実験により、機能的な連絡を確認する。
今年度は所属機関が新施設に移転したため、動物施設と実験室の使用不可能な期間があり、実験の開始が遅れた。その分、次年度に予定以上の予算が必要となるため、一部残した。実験に使用する電極や試薬の購入に当てる予定である。
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Journal of Physiological Sciences
巻: 64 ページ: 37-46
10.1007/s12576-013-0288-1.
Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism
巻: 33 ページ: 1440-1447
10.1038/jcbfm.2013.92.