研究概要 |
近年、ヒトの前腕皮膚に局所麻酔剤を塗布することで、手の触覚機能が向上することが報告されている。本研究の目的は、局所麻酔剤の代わりにメントールによる湿布剤を用い同様の作用、つまりa.それを前腕皮膚に貼付することで触覚を鈍化させることが可能か、b.前腕の触覚鈍化により手の触覚機能を向上させることが可能か、を調べることであり、さらにc. 糖尿病による視覚障害者の点字触読訓練への適用を検討することである。 初年度は糖尿病視覚障害者を対象に実験を行う前に、健常者に対して前述のa, bの可能性を明らかにすること、a のメントール剤による作用が可逆的なものであり、有害性はないことを確認する目的で実験を行った。その結果、メントール剤の貼付により、小指指尖における触覚の感受性と空間分解能が向上することが明らかになった。さらに湿布剤剥離後には、鈍化した触覚閾値が元の状態に回復することが確認できた。 本年度はその結果を踏まえて、視覚障害者17名(糖尿病による中途視覚障害者12名、比較対照として糖尿病以外の原因による視覚障害者5名)に対して前述のa, b, c,を明らかにするために実験を行った。 その結果、糖尿病視覚障害者ではメントール剤を貼付した前腕の触覚閾値は有意に上昇し、同側の示指、小指の触覚閾値及び2点識別値は有意に下降しており、前述のa, bの可能性を明らかにすることができた。c については、メントール剤の貼付前に比べ、貼付後は点字の触読ミスが明らかに減少しており、点字触読の正確性が向上することがが示唆された。 また糖尿病による視覚障害者では糖尿病性末梢神経障害を合併していることが多いため、前腕皮膚の鈍化が生じるかどうかの検証が必要であったが、本実験で、糖尿病視覚障害者であっても、健常者と同様の作用が起こり、それにより点字触読能力を向上させることが可能であることがわかった。
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