研究実績の概要 |
血液透析に用いた酢酸添加重炭酸透析液(A-BD)から代替のクエン酸添加重炭酸透析液(C-BD)に変更すると治療後のQOLが改善すると報告される。我々はC-BDのクエン酸がA-BDの酢酸に比し肝細胞のグリコーゲン合成を優位とし持久力の向上に寄与すると推測した。そこで、マウス(10週齢,♂,体重50g,n=4)の腔内へ各透析液を各々1mL注入投与し、4時間飼育した後、遊泳時間を測定し持久力を比較した。その結果、生食投与群の遊泳持続時間518±96秒に比し、A-BD投与群は430±152秒、C-BD投与群は563±51秒で、A-BD群は他群よりも遊泳時間が短縮する傾向があった。また、遊泳試験直後のマウス肝臓組の湿重量1g中のグリコーゲンは生食投与群12.0±5.2 mg/g に対し、AD投与群13.5±5.3 mg/g CD投与群12.3±3.4 mg/gで何れも有意差は認められず、個体の栄養状態や飼育環境の差異など生理学的実験法では優位性を証明できなかった。そこで、ヒト肝細胞(HHpC)を購入し、コラーゲン被服プレートへ生着させた後、E-MEM培地とA-BDまたはC-BDを等量混和した5%FBS入り溶液で透析治療時間を想定した添加培養実験を試みた。HHpC内のグリコーゲン量の測定とqRT-PCR法で糖代謝関連のグリコーゲン合成酵素(GYS2)とホスホフルクトキナーゼ(PFKL)を測定した。その結果、破砕溶液の蛋白質1μg当たりのグリコーゲン量はA-BD/EMが5.1±0.9ngに比しC-BD/EMは5.8±0.8 ngで有意(p<0.05)に高値であり、且つGYS2の発現量は1.18倍有意(p<0.05)に高値であった。一方、PFKLにおいてはCD-BDはA-BDに比し0.89倍有意(p<0.05)に低値であり、HHpC内の解糖系を抑制し、糖代謝をグリコーゲン合成系へ導くと考えられる。透析液に添加されるクエン酸は酢酸に比し透析中に肝臓のエネルギー保持量を優位とすることが透析後のQOL改善効果に寄与している可能性がある。
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