研究課題/領域番号 |
24500671
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本高等専門学校 |
研究代表者 |
清田 公保 熊本高等専門学校, 人間情報システム工学科, 教授 (80186353)
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研究分担者 |
合志 和洋 熊本高等専門学校, 人間情報システム工学科, 准教授 (20303711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視覚障碍者 / 就業支援 / 電子カルテ / ペン入力 / 改ざん防止 |
研究概要 |
我が国の視覚障碍者は全国でおよそ30.1万人(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部調べ)、そのうち全盲は約11万人、弱視は約19万人にのぼる。特に近年は、糖尿病性網膜症による中途視覚障碍者の割合が高くなっている傾向がある。こうした中途視覚障碍者の多くは,あん摩マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師の国家資格取得による職業的自立を目指しており、全国5ヶ所に設置された国立施設の理療教育課程や各県にある盲学校等に在籍し、3年若しくは5年にわたる専門教育を履修している。一方、点字の使用は視覚障碍者全体の9.2%であり、理療教育の課程に入所後も、授業時の点字使用者のPC使用率は10.7%に留まり、筆記具未使用率は50.0%にのぼっている。このため、学習困難に陥るケースも後を絶たたず、中途失明の視覚障碍者が電子データとして施術録に残す方法も確立していない。 本研究では、中途失明により理療教育機関および鍼灸医療機関で就業を志す中途視覚障碍者の就業支援と高度情報セキュリティ機能を融合した統合型ペン入力理療用電子カルテシステムの実用化を目的とする。点字の修得が困難な視覚障碍者に対してペン入力技術を利用したペンインタフェースの導入により、施術における医療筆記を実現する。さらに、従来の電子カルテ導入時における最大の問題点であった理療記録の有効利用と個人記録の漏えい、改ざん防止という相反する2つの課題に対して、ペン入力によるオンライン筆記情報を用いた個人認証技術を新たに提案し、クラウドコンピューティング機能の導入による理療用電子カルテシステムの実用化を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は主として、これまで申請者らが開発してきた視覚障碍者用ペン入力方式情報端末の基本機能を整理し、無線LANによるユビキタス情報ネットワーク機能を整備してデータベース機能の充実化を図る。さらに、実際に理療教育課程を卒業した中途視覚障碍者の理療師の開業支援を目的とした理療施設を想定してクラウドコンピューティングシステムの基本設計思想を明確にすると共に、現場でのニーズ調査等を実施し、開発の入力システムの有用性を検証した。特に、移動端末における文字入力を考慮し、修正機能およびキーワード検索による関連ファイルの自動検索機能などの実装ができた。 主要な無線LANシステムとしてブロードバンド・光ネットワーク程度の一般的なインターネットを利用し、既に開発済みの患者が紙面に筆記した問診票をデジタル記憶しておくためのデータベース環境の構築を行った。また、タブレット端末として、希望の多かったiPad、iPadmini などのスマートフォンなどでシステムが利用できるための環境整備として認識エンジンの対応についても検討を行ったが、種々の課題があり、認識機能の実装までには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、視覚障碍者が利用するための文字認識処理部分と文書編集機能のインタフェースなどの改良を行った結果、文書作成に関しては、実用的にも十分耐えうる入力システムを確立することができた。 次年度以降は、電子カルテ等への応用に必要不可欠な理療カルテなどの改ざん防止機能の付加と、今回の研究で独自性が高い視覚障碍者のペン入力による個人認証機能の可能性を検討する。文字認識能力の向上と、同一の視覚障碍者が入力した場合に、視覚情報欠如によって筆記される手書き文字データの不安定さを吸収し、個人筆記の認証を如何に実現するかが大きな課題となる。これらの問題に対して申請者らが提案する手法の有用性をプロトタイプの認証システムを構築して検証していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、本研究の基礎技術となる文字認識エンジンを改良し、成りすましや理療情報の不正な改ざんを防止し、電子カルテの運用面における情報セキュリティを強化するための個人認証技術を新たに提案する。 ここでは、電子カルテシステムの署名認証技術の新手法の実装を実現する。従来の署名認識技術では、署名全体において個々のオンライン情報(筆順、筆圧、ペンの傾きなど)をユーザ登録時に記録しておいた参照パタンと時系列に照合する方法がとられるが、視覚障碍者の筆記文字は毎回変化しやすいために、自署の場合でも本人と確認されない場合が多い。これに対して、提案する個人認証では、連続筆記で記入された署名を、1文字ずつ、切り出す技術を用いて単文字毎に類似度を計算し、参照パタンと似ている割合に応じて加点する手法を用いる。 この手法は、一般に用いられる観測空間における参照パタンと入力パタンの類似度計算では致命的な、視覚障碍者にみられる冗長ストロークや欠如ストロークなどの突発的に生じる大きな変形に影響を受けず、類似性の高い部分に対して評価値を与えることで、筆者認識を安定に行えるというロバストな個人認証を実現できる。さらに、実際の筆記時の運筆情報と入力日時を同期させて電子カルテ情報とリンクさせることにより、事後の書き込みや修正などの記録が自動的に付加される機能を導入することで理療現場での改ざん防止の基本思想を明らかにする。
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