研究課題/領域番号 |
24500672
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研究機関 | 熊本高等専門学校 |
研究代表者 |
柴里 弘毅 熊本高等専門学校, 制御情報システム工学科, 教授 (60259968)
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キーワード | アシスティブテクノロジー / 生活支援技術 / ヒューマンインターフェース / 福祉用具・支援機器 / 福祉・介護用ロボット / ユニバーサルデザイン / 人間-機械システム / 制御工学 |
研究概要 |
原因不明の理由により筋肉の収縮、弛緩が繰り返される振戦(しんせん)と呼ばれる症状がある。症状が重くなると字が書きづらいなど、日常生活にも支障をきたすことが問題となっている。本研究の目的は、手に震えのある振戦患者が、自分の力だけで文字を書けるようにペン運びをアシストする装置を開発することにある。 平成25年度は、振戦患者にアシストシステムを適用する前に、アシストの効果や安全性を事前に確認するブラッシュアップ作業が必要不可欠である。健常者が手を震わすことにより疑似振動を発生させることができるが、5~10[Hz]と高速に手を震えさせながら患者の特徴を再現することは不可能である。そこで、書字動作モデルを用い患者の特徴を再現する実験装置を製作した。単一周波数での振動実験により、指定周波数での振動制御が可能であることを確認した。 また、ペン運びを妨げず振戦の影響を抑える理論構築を行った。提案する振戦抑制モデルでは、操作者信号をペン外部の変位w(t) とみなし、バネを介して振戦系質量Mに作用する結果、内部のペン軸により筆記されるものとする。このとき、 w(t)は操作者の随意運動による変位w_H (t)と不随意運動による変位w_d (t)の和とみなすことができる。モデルでは、軸の先端座標y(t)を計測し、力覚提示装置から制御入力u(t)を振戦系質量Mに加える。モデルにおいて筆記方向を1次元に限定することで、制御系の運動方程式を導出した。導出したモデルを用い、外乱推定オブザーバによる操作者信号を推定、随意運動相当部をローパスフィルタにより抽出を行った。振戦抑制制御を3通りの手法でシミュレーションし比較・検討したところ、出力フィードバックを提案手法が、振動率、制御入力の点で良好な結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ペン運びを妨げず振戦の影響を抑える理論構築を行うために、振戦制御系の運動方程式を導出した。導出したモデルを用い、外乱推定オブザーバによる操作者信号を推定、随意運動相当部をローパスフィルタにより抽出を行った。振戦抑制制御を3通りの手法でシミュレーションし比較・検討したところ、出力フィードバックを提案手法が、振動率、制御入力の点で良好な結果が得られた。この結果を、日本人間工学会九州・沖縄支部第34回大会(共催:電子情報通信学会第70回福祉情報工学研究会、併催:人類動態学会西日本大会第38回大会)において発表し、優秀発表賞を受賞した。 「振戦抑制のためのモデル化と手書きアシストへの応用」柴里 弘毅、大塚 弘文、今井 勝、楠田 衛、麻生 晋併:人間工学第34号、pp.7-12,人間工学会 九州・沖縄支部講演論文集 実機ベースについては、振戦発生装置のプロトタイプ開発を終えた段階である。単一周波数での振動実験により、指定周波数での振動制御が可能であることを確認した。理論検証をより確実なものにするために、小型装置開発前に振戦抑制実験により理論確認を行う。 医療機関との連携については、近郊のリハビリテーション機関と臨床計測に向けて、倫理委員会による承認を終えた。疑似振戦発生装置について提案装置が計画通りに進まないときのバックアップとして、医療用の低周波治療器を用い、筋肉に微弱な電流を流すことで不随意運動を発生させる仕組みについても共同で検証を行っている。 以上、研究の目的の達成度については、進捗状況はやや遅れていると判断されるものの、内容については適切な成果を含むものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
シミュレーションから実機ベースでの実験に移行する。現在、振戦発生装置のプロトタイプ開発を終え、単一周波数での振動実験により指定周波数での振動制御が可能であることを確認した段階にある。装置小型化を行うと装置の耐久性や発生力が懸念されることから、小型化の前に振戦抑制実験による理論確認を優先させる。その後、小型・軽量化を図り腕に装着タイプの疑似振戦発生装置の作成を行い、平成24年度に確立させた筆跡を補正させてディスプレイ画面に表示する機能との融合を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,回転型アクチュエータにクランク機構を取り付け,疑似振戦発生装置(プロトタイプ)を作成した.クランク機構部の開発に手間取り,指定周波数での振動発生実験が遅れたため,人の腕に取り付け可能な重量・サイズでの装置開発を次年度に繰り越した. 平成26年度は,プロトタイプを改良した人の腕に取り付け可能な重量・サイズ疑似振動発生装置(30万円)の作成とデータ計測用機器(30万円)に充てる.また,学会発表(18万円)を予定している.概ね予定通りである.
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