原因不明の理由により筋肉の収縮、弛緩が繰り返される振戦と呼ばれる症状がある。症状が重くなると字が書きづらいなど、日常生活にも支障をきたすことが問題となっている。本研究の目的は、手に震えのある振戦患者が、自分の力だけで文字を書けるようにペン運びをアシストする装置を開発することにある。 平成26年度は、書字支援システム開発時の振戦患者の負担を軽減するため、患者に代わり疑似的な振戦振動を発生させる疑似振戦発生装置の開発を行った。疑似振戦発生装置を使用することで、常に安定した振戦を再現でき、評価基準を一定に保つことも可能になる。この装置を実現するために、健常者による疑似的に手を震わせながら書いた筆跡と、脊髄小脳変性症を発症した患者の筆跡を前年度に開発した装置により調査した。次に、計測データを周波数解析と筆跡速度のヒストグラムを用いて整理を行った。これより、疑似的な振戦では5-6[Hz]に振戦のピークが確認できるのに対し、筆跡速度ヒストグラムでは健常者と顕著な違いが現れないこと、一方、脊髄小脳変性症の筆跡は特徴的な周期性がない反面、筆跡速度が低速から高速まで満遍なく分布することが明らかとなった。そこで、疑似振戦発生装置の目標軌道を速度ベースではなく、周波数特性ベースでジェネレートするよう目標信号生成アルゴリズムを構築した。この目標軌道を実現するように最適サーボシステム設計により制御系設計を行い、シミュレーションにより目標とする特徴を有する振戦挙動の再現を確認した。 最終年度までにサンプリング速度を大幅に向上させたハプティックデバイスを用いた書字計測・アシストシステムの構築、描画した文字から不随意信号を抑制する描画アルゴリズム、不随意運動抑制力を発生するアルゴリズムを構築した。また、今後のシステムの改良を容易にし、評価再現性を高めるための疑似振戦発生アルゴリズムを提案した。
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