研究課題/領域番号 |
24500679
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
乾 信之 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (30144009)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 固有感覚 / 身体イメージ / 幻肢 |
研究概要 |
我々の先行研究は手指,手首,肘を伸展位または屈曲位に固定し,上腕部にカフ圧を加えると,皮膚と固有感覚の受容器に関係する大径有髄線維の麻痺に対応して,それらの関節の知覚が急激に変化し,伸展位に固定した時の関節の知覚は屈曲位の方向へ変化し,屈曲位に固定した時のそれは伸展位の方向へ変化した。 本年度は多くの骨格筋が二関節筋であることを考慮した実験を行った。手首を屈曲位に肘を伸展位に固定した時,皮膚感覚の麻痺に伴って,手首は伸展方向へ,肘は屈曲方向へ動くように知覚された。一方,手首を伸展位に肘を屈曲位に固定した時,それぞれ逆方向へ動くように知覚された。したがって,手首と肘をまたぐ二関節筋の相互作用の影響はなく,手首と肘の知覚は独立して逆方向へ変化した。関節が極端な姿勢をとって止血されると,伸展された筋からの感覚入力の消失が屈曲された筋のそれよりも相対的に大きく,関節の位置知覚は逆方向へ動く。このような姿勢の知覚変化は屈筋と伸筋からくる感覚入力のバランスに基づく脳内の身体図式の変化である。従来,皮質の身体図式の再組織化は小径無髄線維の消失によると言われているが,本研究の結果は大径有髄線維からの感覚入力の消失が短期的な皮質の再編を生じ,前腕の姿勢の知覚変化をもたらしたと考えられる。 次に,上肢と同様な現象を下肢でも証明するために,大腿部にカフ圧を加えた。その結果,大径有髄線維の麻痺に対応して,足首と膝の関節の知覚が徐々に変化し,伸展位に固定した時の関節の知覚は屈曲位の方向へ変化し,屈曲位に固定した時のそれは伸展位の方向へ変化した。さらに,知覚変化に対する視覚の影響をみるため,40分間のカフ圧終了後,被験者に知覚変化した下肢を見せた。その結果,知覚変化は実験の初期の段階へ戻り,四肢の位置感覚は固有感覚よりも視覚によって優位にコード化されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度で2年間の実験を行った。現在までの研究成果は以下の通りである。 1.手指,手首,肘,足首,膝を極端な伸展位または屈曲位に固定し,上腕部と大腿部にカフ圧を加えると,それぞれの関節は逆方向に変化するように知覚された。四肢の位置知覚はその姿勢によって伸展される筋群によって決まる。伸展された筋群からの強い感覚入力が消失すると,関節の知覚変化を生じる。対照的に,その姿勢によって短縮した拮抗筋からの弱い感覚入力が消失しても関節の知覚変化は生じない(J Physiol 2011, Exp Brain Res 2013)。 2.手首を中間位に固定して止血すると,屈筋と伸筋からの感覚入力は平衡を保持したまま消失するため,知覚変化は起こらなかった(Exp Brain Res 2012a)。 3.手首と肘を逆方向に固定して止血すると,それぞれ逆方向に知覚変化が生じ,二関節筋の影響はみられなかった(Exp Brain Res 2012b)。 4.知覚変化に対する視覚の影響をみるために,40分間のカフ圧終了後に被験者に知覚変化した下肢を見せた。その結果,知覚変化は実験の初期の段階へ戻り,四肢の位置感覚は固有感覚よりも視覚によって優位にコード化されていた(Exp Brain Res 2013)。
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今後の研究の推進方策 |
今後,以下の2つの実験を計画している。 1.身体イメージへの道具の参入:肘を極端な伸展位で固定し,上腕部にカフ圧を加えると,肘は屈曲方向に変化するように知覚される。したがって,その時,手に棒を固定すると,肘の知覚変化と伴に,手の棒も一緒に屈曲方向へ動くように知覚されるかどうか検討する。 2.仮想環境における腕の位置感覚に与える視覚と固有感覚の可塑性:被験者に偽の右腕の位置を映像で30分間与えた時,実際の右腕の位置を左腕で再生させる。さらに,偽の右腕の位置を左腕で再生させる。実際の右腕の位置を再生する時は偽の腕の方向に引きずられて知覚される(視覚の可塑性)が,偽の腕の再生時には実際の腕の方向に引きずられて知覚される(固有感覚の可塑性)と予想している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では関節角度が主要な測度であり,前年度まではゴニオメータで測定していたが,使用頻度が増すと,誤差が生じるようになった。したがって,今後は光学式トラッキングシステムを用いて,関節角度を計測する。すでに前年度に購入したものを拡充して,測定の精度を上げるように計画している。 その他の研究経費として計上するものは,4つの学会参加のための旅費,論文作成に関わる経費である。論文に関しては英文校正,投稿料,掲載費を計上している。
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