研究課題/領域番号 |
24500681
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
宮口 和義 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60457893)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 幼児 / ヒヤリハット / 全身反応 / 鬼ごっこ / ゲーム |
研究概要 |
各保育園のヒヤリハット事例をまとめるとともに、石川県内の保育士(新人から勤続10年以上のベテラン保育士)を対象にアンケート調査を実施し、「今の子どもの気になる点」について分析を試みた。その結果、「すぐ疲れたと言う」「床にすぐ転がる」「転んで手が出ない」「躓いてよく転ぶ」といった回答が多かったが、ベテラン保育士ほど、昔に比べ「立っているときや座っているときの姿勢が悪い」「平均台などでバランスを保つのが下手」「からだの操作が未熟」といった意見が多かった。運動能力測定結果(立ち幅跳び、ソフトバランスバーを用いた動的バランス)と上記項目との関係も認められた。 また、上肢と全身の反応動作の発達、および前述の反応時間と好みの遊びとの関係につ いて検討した。運動パターンの異なる各動作の反応時間の分析により、幼児期においては情報処理機能よりも運動出力機能に著しい発達変化が起こっていることが示唆された。「鬼ごっこ」と「サッカー」のような動的な遊びは、反応動作のスピードと全身運動の敏捷性を発達させ、特に、一つの活動だけでなく多くの異なる種類の運動を実行することが各反応時間を短くするために効果的であることが示唆された。さらに「鬼ごっこ」を好む幼児の運動能力特性について、他の遊びとの比較も踏まえ検討した結果、「鬼ごっこ」を好む園児は左右の切り替え動作を含む敏捷性能力に優れていることが明らかとなった。保育園の運動プログラムに積極的に「鬼ごっこ」を導入することで、危険回避に関わる敏捷性能力の向上が期待できるだろう。 なお、近年では幼児においてもテレビゲーム(ゲーム)がかなり普及(約4割が実施)している。そこでゲームと各反応との関連についても検証した。その結果、ゲームは視覚情報に対する上肢系の反応時間に対する効果はあるが、全身の敏捷性を高める効果はないこともわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幼児の身のまわりで起こった“ヒヤリハット”の分析については、各保育園での記録方法に差があり、当初予定していた統計的手法による分析は難しいことが判明した。しかし、保育士による行動観察調査を積極的に行うとともに、体力および運動能力調査結果と照らし合わせ、今の子どもの運動機能におけるウイークポイントを探った。加えて“咄嗟に身をかわす”といった危険回避に関わる反応時間(単純反応・上肢反応・全身反応)と子ども達が実践している遊びとの関係を検討した。 反応時間は反応の運動パターンによって異なる可能性がある。上肢においても2つの反応動作がある。1つは刺激に反応しスイッチを打叩するタッチ動作である。もう一つは、非常に熱い何かに不注意に触れることに対する即座の引きのようなスイッチから手を離す運動である。前者は随意的な動作であるのに対して、後者は屈曲反射に類似した固有の反射的な動作と見なすことができる。これら上肢の反応動作は、主として小筋活動に依存し、情報処理機能の影響が大きい。一方、全身の反応動作は、運動出力機能の影響が大きい。本研究では、まず上記の異なる各動作の反応時間の発達について検証した。 また、各反応時間は、日常の遊びの中の、全身を使った動的遊びの経験が大きく影響すると考えられる。よって、好まれる遊びを、動的遊び(鬼ごっこ、サッカー、サーキット[巧技台遊び]、ドッジボール、縄跳び)と静的遊び(お絵かき、ままごと、絵本、ブロック、砂遊び)に分類した後、遊びと動作反応時間との関係を検討した。その結果、どのようなタイプの運動遊びが幼児期に有効か、ある程度明らかになったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、現在、各保育園で“身のこなし”を高める運動遊びとして、新聞紙棒を用いた体操(スティックダンス)やゲームを導入している。また、新聞紙を丸めてつくったボール(新聞紙ボール)でのサッカー遊びも積極的に取り組んでいる。今後はこれら運動遊びの効果を検証していく予定である。昨年は、単純反応(全身反応も含む)を中心に測定・考察を進めていたが、鬼ごっこ中の衝突事故が多いという意見を踏まえ、今年度は速度見越し反応時間に注目し、ボール運動による効果を検証する予定である。 文科省より『幼児期運動指針』が発表(2012年)され、健康づくりを方針の一つに掲げる幼稚園・保育園も多くなってきた。しかし、今日の子どもを取り巻く環境を考えると、カリキュラムとしての運動機会の拡大に加え、生活習慣の中に運動をいかに組み込むか、積極的に検討していく必要がある。そこで、毎日活用する子ども達の履物にも注目した。以前に比べ、路面整備が進み、凹凸ある地面が減り、バランスを保ちながら動く機会が減少している。また、日中の靴下と靴の着用は足趾の動きを阻害する可能性もある。特に最近では、流行およびファッション性から合成樹脂製のスリッパ式サンダルを子どもに履かせる親も多い。我々は、鼻緒式草履サンダルの活用により、運動遊びの更なる効果を期待している。東北震災(原発の影響)により、外遊びが減り、偏平足の園児が増えているという報告もある。ぜひ有益な情報を提供したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として、申請者が推奨する運動遊び(ラダー運動「縄梯子を使ったステップ運動」、紙ボールサッカー、棒体操etc.)の効果を検証するため、各種測定器具を納入予定。保育士研修会等を通じて申請者が考案したオリジナルラダー(チビラダー)の普及を目指す予定である。また、動的バランス能力を簡便に評価できる装置の開発およびバランス感覚を鍛える運動遊び(遊具)の考案も予定している。
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