研究課題/領域番号 |
24500681
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
宮口 和義 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60457893)
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キーワード | 幼児 / ヒヤリハット / 反応時間 / 草履 / ラダー運動 |
研究概要 |
昨年に引き続き、保育現場におけるヒヤリハットの現状を探るため、モデル保育園を決めて1年間のヒヤリハットおよび実際の事故(ケガ)について記録した。様々な原因が挙げられるが、特に運動能力低下が原因と考えられる事例について、現在分析中である。 また、我々がこれまで推奨してきたラダー運動の成就力と各種反応時間との関係について検討した。被験者は4~6歳児の計167名であった。彼らは、4ヶ月間、週2回の頻度で5種類のラダー課題を練習した。4ヶ月後、3種から成るラダー成就テストを行うとともに、反復横跳びテストおよび3種の光刺激による反応時間テスト(単純、上肢および全身反応時間)を実施した。その結果、ラダー運動は反復横跳びとの関係に加え、特に全身反応時間と密接に関連があることが示唆された。ラダー運動は今日の子ども達の各反応動作の改善に有効と思われる。 現代は、以前に比べ路面整備が進み、凹凸ある地面が減り、バランスを保ちながら動く機会が減少している。また、日中の靴下と靴の着用は足趾の動きを制限し、靴下と靴あるいは靴下と足との間の滑りが足趾の動きを阻害する可能性もある。よって、幼児の場合、運動遊び導入に加え、毎日着用する履物にも十分な配慮が必要だろう。そこで、草履式鼻緒サンダル(スクールサンダル)の着用が幼児の静止立位重心動揺、足裏接地面積、および静止立位姿勢に対してどのような影響を及ぼすのか検討した。対照園(未導入園)では変化は認められなかったが、導入園では静止立位時の揺れが小さくなった。また、足裏接地面積も導入園のみ有意に小さくなっており、土踏まず形成の促進が観察された。上記変化が認められた園児の立位姿勢に注目すると、骨盤の前傾化など姿勢変化が窺えた。草履サンダルによって足関節まわりの筋活動増大、ヒラメ筋張力の増大等がみられ、姿勢・運動の安定化につながることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒヤリハットに関する分析については、前述したようにモデル園において継続調査中である。また、K市33保育園の協力によって、実際のケガ発生事例と担当保育士による生活行動調査も行っている。今後、ケガ発生に関わる要因について明らかにしていくつもりである。 幼児におけるラダー運動の効果については、これまで走能力、左右への素早いフットワークの改善等、運動学的な面から明らかにしてきた。しかし、近年問題視されている危険回避能力に関わる神経系への影響については不明であった。そこで、各種の反応時間(単純・上肢・全身)への効果が認められるか検証した。特に“全身の身のこなし(全身反応時間)”にラダー運動が有効であることが確認できたことは、今後ラダー運動を推奨していく上で有益な知見といえる。また 鬼ごっこ、サッカー遊び、縄跳びといった従来から行われている運動遊びと各反応時間との関係についても検討した。 当初、ヒヤリハットを防ぐためには有効な運動遊びを考案、普及することが重要と考えていた。しかし、初年度の取り組みの結果、運動遊びを実践する際の履物によって、たとえ有効な遊びであっても、その効果が大きく異なることが示唆された。よって、県内の多くの保育施設(幼稚園、保育園)における幼児の足裏計測(足裏接地面積、浮き趾の有無、土踏まず形成、足圧中心位置等)を行い、履物(外履き、上履き)とバランス能力や立位姿勢との関係についても検討を行った。特に、最近ではスリッパ型のサンダルが流行しており、保育関係者の間でも問題になっている。よって、本研究の主旨とは異なるが、足の成長にも注目し、研究を展開していくことにした。現場における反響は大きく、多くの保育園や幼稚園において草履式鼻緒サンダルを実際に導入してもらっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、園児のケガに関する諸要因について詳細に検討していく予定である。特に運動能力低下に関わるものを取り上げ、改善に向けどのような運動課題を導入すべきか考察していく。 また、すでにK市内の10保育園において新聞紙棒を用いた体操(スティックダンス)を導入している。昨年の同年齢の園児と比べて運動能力(動的バランス、瞬発力、敏捷性等)の改善がみられるか、運動能力測定(左右反復跳び、立ち幅跳び、ソフトバランスバーを用いたテスト)を実施し、比較検討していく。高齢者との交流を通してこの体操が普及していくように働きかける予定でいる。 30年前の幼児に比べ立ち幅跳びの記録が低下している。以前は、年長児の約半数の者が自身の身長を跳ぶことができたが、現在は3割の者しか跳べていなかった。年少児でも身長を跳べる園児がいることを踏まえると、この身長を目標値に設定することは適切と思われる。身長を跳べない園児は「とっさの動きができない」といった結果も得ている。この目標値の裏付けを本年度は行いたい。 本研究によって明らかになった知見については幼児保育現場及び小学校現場にフィードバックするとともに、親に対してもわかりやすい資料として配布する。研究計画に従い様々な学術雑誌に原著論文として発表・紹介するとともに、各種講演会や研修会を通して保育現場に広く情報提供する予定である。また、“ちびラダー”については、運動遊び研修会等で、広く宣伝活動すると同時に、幼児専門の体育教室等でも活用してもらえるように働きかける。さらに、各種運動遊びに興味・関心のある幼稚園・保育園に対しては、その具体的なカリキュラムの指導等、それぞれの現場での利用が可能なように責任を持って協力する。
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次年度の研究費の使用計画 |
オリジナルで業者につくってもらった測定器具(傾斜台)の価格が当初の予定より安くなったためである。 現在、幼児の運動遊び用にオリジナル平均台(スナックビーム)をつくっているが、その費用に充てる予定である。
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