本研究では,適応的歩行に関わる視覚情報の時間的および空間的統合の認知について,定型発達児および自閉症スペクトラム障害(ASD)児に実施可能な課題を構築することを目的とした.視覚課題として方向弁別課題を用いて健常成人を対象に行動実験を行い,安定した正答率を得るための最小施行数をシミュレーション解析したところ,各被験者内での正答率の安定性と個人間差を評価するために必要な試行数はいずれも同程度であった.次に定型発達児を対象に,上記の視覚課題で行動実験を行ったところ,実験の前半と後半で疲労による正答率の影響は見られず,定型発達児においても比較的信頼性の高い指標であると考えられた.また,方向弁別課題をASD児に適応するため,さらに施行数および実施時間を短縮できるか検討し,行動実験および脳波実験を行った.方向弁別の難易度を5段階に設定したところ,5段階すべてに80%以上の高い正答率を示し,かつ方向弁別の反応時間は弁別が難しい課題と比べて容易な課題では有意に短縮していた.また事象関連電位N200成分が頭頂後頭部に両側性に出現し,N200成分の潜時は弁別が難しい課題と比べて容易な条件では有意に短縮していた.本研究で作成した視覚課題は5条件すべてに安定して正答率が高く,N200成分が再現性をもって出現していた.N200成分の振幅に条件間差が見られなかったのは,ASD小児に適応できるようにできるだけ容易な条件としたためと考えられる.反応時間とN200成分の潜時はいずれも方向弁別が容易な条件で有意に潜時が短縮し,これは先行研究の知見と一致していた.本研究の視覚課題は小児の視覚背側経路の認知機能を評価する簡便で正確な検査法として有用であることが期待できる.
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