運動指導においては、動きを外から見た形の欠点を指摘するだけでは改善は難しい。そこでは学習者の動感(キネステーゼ)にはたらきかけるアドバイスが必要になってくるが、それができるためには他者の動感を運動観察から解釈できる動感志向性を理解する専門能力が不可欠である。 これまで、特に子どもの運動習得における動感発生についてシンボルという視点から事例的に考察し、その成果を学会等で口頭発表してきた。本年度はこれまでの考察のまとめとして論文にまとめ発表した。 ひとつは、「運動発達査定における動感志向分析の意義」と題された論文で、わが国の体育・スポーツに関する研究誌としては最高権威である体育学研究に掲載された。もうひとつは、“Ueber die Bedeutung der kinaesthetischen Analyse bei der Diagnose und Bewertung der motorischen Entwicklung von Kindern -Eine phaenomenologische Betrachtung ueber die Genese der Kinaesthese als Krise-”である。これは、ドイツの体育専門誌であるSportunterrichtに掲載された。 これらの研究は、外形的視点では措定できない志向性を、メルロ=ポンティの意味での象徴的(シンボル)行動形態の発生という観点から考察したもので、現象学の方法によってはじめて確認されうるものである。本論文で提示された内容は、人間の運動に関してこれまでの認識とまったく異なる視点から理解することの必要性を例証したものであり、運動指導を考える上できわめて斬新な理論である。
|