最終年度である平成27年度は、軽度発達障害の児童生徒の心理的成長について、事例研究から検討した。事例研究の対象は、自然体験療法に参加した軽度発達障害の児童生徒の中から、本研究者からみて効果が大きいと判断された3名を抽出した。事例研究のためのデータは、事前、事後の面接、自然体験療法プログラム中の参与観察、また、事前事後に実施した描画法(風景構成法)から収集された。事例研究では、事例の対象者の自然体験療法プログラムにおける、心理的成長と体験過程はどのように理解することができるかについて検討された。 その結果、事例1では、プログラムを通じて、これまで持っていたこだわりや認識をあらためるような体験が観察された。一般的に発達障害者のこだわりは変容しにくいことが知られているが、プログラムの中では、こだわりや信念に近い認識を変えることも可能であることが理解された。また、人間関係能力に関する自己意識の改善が認められた。次に、事例2は、いじめの経験から対人的な不安感の強い生徒の事例であった。事例2は、スタッフにおける受容される体験とグループの仲間に受容される体験を重ねることで、被受容感を高めることが可能となったことが理解された。このような体験から自己イメージの変容が認められた。事例3は、自己中心性や衝動性などからグループ内で孤立することがしばしば認められる事例であった。プログラムのグループ活動を通じて、徐々に自己中心的な考えや行動が修正され、グループに適応してゆくことが観察された。このような発達障害児の事例では、個性化と社会化がバランスをとりながら進展することが理解された。 以上の3例の事例研究から、発達障害と呼ばれる児童生徒であっても、それぞれに個別の課題を示し、自然体験療法プログラムにおいては、それぞれの課題に取組みながらも、課題に関連した心理的成長を示すことが理解された。
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