本研究の目的は,動きの印象を定量化するための心理的尺度を作成したのち,動きの時間的・空間的物理情報,身体特性などを説明変数,動きの印象を目的変数とし,動きの印象を決定する物理情報を特定する.さらに,動きを観察する際の注視行動を説明変数,動きの印象を目的変数とし,両者の関連性を検討することであった. そこで,本年度は,動きの印象と動きを観察する際の注視行動との関連性について分析した.まず,大学生を被験者とし,ダンスのスキルレベルの異なるモデル4名の6つの動きの映像を観察させ,3つの感性語(おおきい,はやい,なめらか)を用いて評定させた.なお,被験者には,アイマークレコーダーを装着させ,視点の移動速度,停留時間,水平方向・垂直方向への移動距離等を測定した. まず,3つの感性語間の相関を求めたところ,いずれも低く独立した印象評価の指標となっていることが示された. 次に,視点の移動速度と感性語との相関を求めたところ,ほとんどの動きにおいて負の相関が認められた.また,水平方向への移動距離,垂直方向への移動距離との間にも同様に負の相関が認められた.特に,【動きC】では,移動速度と「はやい」,水平方向への移動距離と「おおきい」「はやい」,垂直方向への移動距離と「はやい」との間に負のかなり高い相関が認められたことから,動きが大きい,速い,滑らかという印象が強いほど視点の移動が少ないことが明らかとなった. また,停留時間と感性語との間には正の相関が認められた.【動きB】では,停留時間と「おおきい」との間に,【動きC】では,すべての感性語との間に正のかなり高い相関が認められた.このことから,動きについての印象が強くなるほど,視点の停留時間が長くなることが明らかとなった. なお,こうした動きの印象と注視行動との関係は,すべての動きに認められたわけではなく,動きの特徴によって異なると考えられる.
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