研究課題/領域番号 |
24500709
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
田中 彰吾 東海大学, 総合教育センター, 准教授 (40408018)
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キーワード | 身体知 / 間主観性 / 身体性 / 現象学 / 他者理解 / 間身体性 / 国際研究交流(ドイツ) / 国際研究交流(フランス) |
研究概要 |
本研究は、研究課題にある通り、間主観性領域における身体知を解明することを目指して、理論研究と実験研究を並行して行うものである。身体知は一般に「身体が知っている」と呼ばれるタイプの知識を指す。従来の身体知研究は、どちらかというと個人の運動スキルやその学習に焦点を当てたものが多かったが、本研究は、研究対象を間主観性の領域まで拡大し、自己と他者の相互行為を主題的に扱っている点で独自性を有する。 3年計画の2年目に当たる平成25年度は、研究を理論面のみに絞って進めた。主な理由は、平成25年10月から翌年3月までの半年間、勤務先(東海大学)の海外研究派遣制度により、研究代表者(田中)がドイツのハイデルベルク大学に滞在して在外研究を行っていたためである。この間、実験データの収集が不可能であること、また、現象学研究が盛んなヨーロッパでの研究が可能であることを考慮し、間主観性と身体性について、現象学的観点からの理論研究に集中することにした。研究内容のアウトラインは以下の2点にまとめることができる。 (1)間主観性の始まりとしての身体知覚の問題:伝統的な現象学の枠組みでは、自己が他者の身体を知覚する場面を手掛かりに間主観性の成立契機が論じられてきた(フッサールの他者論)。これに対し、本研究では、自己の身体が他者に知覚される場面(見られる,触れられる)に焦点を当て、他者の主観性または心をどのように認知しうるのか、身体イメージなどの具体的論点に絡めて記述した。 (2)社会的認知の基礎としての「間身体性」の研究:間主観性を身体性からとらえ直す発想は、現象学ではメルロ=ポンティの「間身体性」の概念にその源流を見出すことができる。本研究では、間身体性について現代の心の科学(認知科学・神経科学等)を参照しながら取り上げ直し、他者の心が間接的な推論ではなく、直接的に知覚される可能性について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
条件付きだが、当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。「条件付き」とするのは、当初の予定とはやや異なる方向で研究が進展したためである。 先に「研究実績の概要」で述べた通り、平成25年度はドイツに滞在して在外研究を実施することになった。この間は実験実施が不可能になることを考慮して、理論研究を重点的に推進する方針に転換し、出発前はその準備を兼ねた研究活動を行った。主な成果は、7月にフランスの研究者を招へいして開催したワークショップ1件(「Intersubjective Dimension of the Body」於東海大学)、9月に国内の関連学会で開催したシンポジウム1件(「自己へのエンボディード・アプローチ」於日本心理学会)である。身体性の問題を中心に、両イベントで活発な議論を重ねた。 ドイツ滞在中は、ハイデルベルク大学・精神社会医学センターで研究に専念した。現在、同大学は、ヨーロッパ5カ国で推進している研究プロジェクト「TESIS (Towards an Embodied Science of Intersubjectivity,間主観性の身体化された科学に向かって)」の中心拠点となっている。名称から伺える通り、本研究と方向性を共有するプロジェクトであり、関係者と重ねた数多くの議論は、本研究に直結する重要なものであった。また、こうした環境で、今後の長期的研究の展望や、国際的な共同研究の足がかりを得られたことも貴重であった。 滞在中の成果として、第一に、2件の研究講演があげられる。1件は滞在先のハイデルベルク大学で行ったもの、他1件はルール大学ボーフムから招へいを受けて行ったものである。第二に、英文のフルペーパーを2本執筆し、関連する国際誌に投稿した。1本は審査中であり、今のところ採否は未定だが、他の1本はすでに受理が決まっており、8月頃に出版される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の展開について、三つに区別して述べる。 (1)本研究は理論研究と実験研究を並行して行うものだが、前項で記した通り、平成25年度は理論面での研究が大幅に進展した。理論研究については、当初の目標はおおむね達成されており、国際誌に投稿済みの論文2編の査読結果を待ち、結果を受けて修正し、出版まで進めることが今年度の課題である。 (2)実験のデータ収集と分析は、昨年度は十分に進展しないまま今年度に持ち越されている。実験は、1対1のペアで、言葉を用いずに互いに即興の描画でコミュニケーションを図るという様式のものである。理論的に考察を進めている通り、コミュニケーションを通じた他者の理解が、間接的な推論ではなく直接的かつ身体的な交流を基礎として成立しているとするなら、分析すべきポイントはおのずと明確になる。第一に、視線・指差し・相づちなど、いわゆる「Ostensive Cues」と呼ばれる身体的シグナルがメッセージ伝達をどのように支えているかを確認すること。第二に、間身体性が、相互行為の同調および同期としてどのように現われるのかを確認することである。今年度は、データ収集を進めながら、以上二つの観点から映像データの分析を進める。実験参加者が主観的に感じているコミュニケーションの成立度と、身体的な同調と同期がどのように相関しているか検討することが、今年度の課題である。 (3) 平成26年度は本計画の最終年度に当たるため、次年度以降の研究計画を考える必要がある。幸い、ドイツ滞在中に身体性や間主観性に関心のある多くの関係者と議論を続ける過程で、新たな研究の着想(身体性に基礎を置く人間科学を構想すること)を得ることができた。今年度は、着想を具体的な研究計画へと展開する準備作業を進めたい。国際的な発信力を高めるため、ヨーロッパの若手研究者との共同研究として実施することも念頭に置いている。
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