研究課題/領域番号 |
24500720
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大沼 義彦 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70213808)
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キーワード | 国際情報交換 / オリンピック / 都市 / 政策 |
研究概要 |
平成25年度は、五輪開催後を見通した中長期的スポーツ政策の戦略性とその実像の解明を目的に、①北京五輪後の高等教育機関とトップアスリート養成、②社区体育(コミュニティ・スポーツ)の実態に関する検討を行った。具体的には,北京大学、精華大学、北京体育大学を訪問し、研究者へのインタビュー、関連図書・資料の収集、及び北京、天津における社区体育、特に公園での市民スポーツ実践のフィールドワークを行った。 中国のスポーツ振興計画は、5年ごとの中期計画によって規定される。第11期5カ年計画(2005-2010)では、北京五輪の成功を「全民健身」(=国民の健康体力づくり運動)計画へと接続することが目指された。五輪後はそのための条件整備(施設、予算、指導者配置等)が積極的に試行された。第12期5カ年計画(2011-2015)では、その傾向を加速させ、「全民健身」の実現が全面に押し出されている点が大きな特徴となっていた。 高等教育機関では、トップアスリート養成よりは健康や運動プログラム開発へと研究の重心を移行させてきている。具体的には、国民の体力・健康に関するデータの分析、集約と一元化、これらを活用した健康・運動プログラム提供方策に関する研究である。他方、北京五輪までに組織的に行われていた五輪文化や理念に関する研究や教育・啓発活動は後景に退いていた。 市民スポーツレベルでは、公園で自主的に運動をする市民、特に女性や高齢者の姿が確認された。例えば70名ほどの会員を要する太極拳の集団では、有資格の指導者が毎朝指導にあたっていた。近年になってこうした団体に対する経済的支援も行政からなされるようになり、制度的支援体制が市民レベルにまで浸透していることが確認された。また、公園そのものが都市の文化的自由空間となっており、健康的な運動参加が自律した市民生活の一領域となっていることも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の課題は、中国北京市を対象に、(1)北京五輪における中長期的スポーツ政策、及び都市・社会政策実態の解明、(2)北京五輪後におけるスポーツプログラム/実践と変動要因の解明、(3)スポーツ政策の戦略性の解明であった。 (1)中長期的スポーツ政策については、第12期5カ年計画や関連資料の中から、今後の政策動向と諸背景を確認する事が出来た。特に、高等教育機関では、これまで個別に蓄積されてきた健康や体力データの一元化に向けた取り組みが積極的になされており、これらを具体的に市民スポーツへと還元する方策が検討されていた。 (2)市民スポーツの実態面では、五輪後の物的(施設・設備的)支援や人的・組織的支援(指導者養成等)の浸透度を確認することができた。 (3)昨年度のロンドン五輪調査との比較から、五輪後は健康体力づくり政策への接続という観点への移行が共通してみられることがわかった。 概ね調査研究は順調に推移し、基本的な資料等の収集と理解は進んだ。ただし、当初2回を予定していた中国訪問が1回となってしまったために関連資料の収集や調査対象には限界があった。例えば、福祉政策等の個別社会政策との関連なども仔細に分析する必要があり、その部分の資料やデータの収集、分析が課題となっている。また、当初予定していた高等教育機関における制度的なトップアスリート養成に関する調査、及び公園以外の公的な社会体育機関への調査は、調査日程の関係で実施する事ができなかった。この点は次年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、当初の予定通り、五輪後を見据えたスポーツ政策/都市政策の戦略性の析出を課題に、英国ロンドン、中国北京を主要な対象として、これまで収集されてきた資料、及びデータから関連する論点の整理を行い、研究のまとめを行う。 ロンドン五輪調査では、ロンドン五輪跡地利用の状況調査や周辺自治体の変化が課題として残されていた。実地での調査、ならびに関連する研究及び研究者へのインタビュー調査を行い、この点を明らかにしていく予定である。 北京五輪調査においては、福祉政策や都市政策、及び高等教育機関におけるトップアスリート養成に関する資料収集、並びに関連研究者へのインタビュー調査が遅れていた。この部分の調査を行って行く予定である。 ロンドン五輪、北京五輪の調査から、比較のための枠組みを設定・分析し、各五輪のスポーツ政策としての戦略性としてまとめる作業を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、当初北京調査を2度(延べ4週間)予定していたが、実際には諸般の事情により、10日間の訪問にならざるを得なかった。そのため、8.5万円ほどの残金が生じた。この分は、今年度の北京五輪補充調査用に計上する。 本年度は、図書費(ロンドン、北京五輪関係洋・和書)として10万円、消耗品(データ保存用メディア、コピー用紙)5万円、国内旅費(成果報告)10万円、外国旅費(英国45万円、中国28.5万円)73.5万円、人件費・謝金(特に中国語政策文書、資料等の翻訳費、通訳費)として20万円、その他(学会参加費、報告書印刷費)20万円を予定している。
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