オリンピック冬季大会が,これまでに我々に残してきたものは何か。今後のオリンピックのあり方を考えるためには,過去の大会についての分析・検討・整理は必須である。このような問題意識から,本研究においてはまず,国際オリンピック委員会が作成した資料をもとに分析・検討を行い,冬季大会と環境との関係に特徴があることについて指摘した。冬季大会の種目は野外のフィールドや自然環境を対象・媒介として実施されることから,このことは当然と言えば当然の事実である。しかし,問題はこれだけに集約されるものではない。なぜならば,冬季大会の舞台となるその自然環境はオリンピック委員会が独自に所有・管理しているものではなく,地域住民の歴史的財産であるからである。つまり,このことは言いかえれば,オリンピック冬季大会は開催地の地域住民の財産となりうるかどうかという選択肢でもある。このため,冬季大会を(国際)オリンピック委員会だけの範囲でとらえている現状には限界があるとともに,委員会と地域住民との会議は計時的に一過性であり,そこには自然を対象とした時間的な普遍的な対応はみられないことについても指摘を行った。 これらの研究結果から得られた成果の一つが,「環境レガシー」の必要性である。この研究内容については,既に国際学術雑誌および最終年度の発表において公刊されているが,その要点は次の通りである。オリンピック冬季大会の環境レガシーを考える際に重要なポイントとなる点は,開催候補地に居住する地域住民の理解が基本となることである。レガシーとはその地域が候補地となる段階あるいは大会終了後に検討されるものではなく,事前に検討されるべき内容である。そのためには,平素から地域における学校教育の内容として,夏季大会と同様に冬季大会の内容を付け加えることが必要不可欠であることを指摘することができる。
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