スポーツにおける競争という一見他者との対立や隔離を誘発する様相において、拡大体験が成立する地平を探ると共にその教育的意義を明らかとすることが目的である。拡大経験は競技者間に発生する非人称性を伴った溶解体験を対象化することで生ずる経験であり、競技者同士が完全にはコントロールできない他者性を帯びている。この経験を媒介として相互尊敬の念が生じる可能性が見出される。これは、スポーツが有する教育的意義の一つであるが、それを目的に教育プログラムを構築するのは、相互尊敬が偶発的に起こるがゆえに困難であり、その条件や環境を整えることが肝要である。また、相互尊敬の念を確認する指導者の共感力の涵養も重要である。
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