研究課題/領域番号 |
24500739
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
門田 浩二 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50557220)
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研究分担者 |
木下 博 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60161535)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スポーツ心理学 / 視覚運動制御 / 到達運動 / 側性 / ゲイン調節 |
研究概要 |
自己運動により生じる運動の誤差の修正を担う脳神経系の情報処理を理解するために,到達運動中の視野背景運動が到達腕に誘発する運動応答(MFR)の特性を心理物理実験により検討した. 初年度である平成24年度は視覚刺激の作成と制御,およびそれに同期した運動計測が可能となる実験系の構築に取り組んだ.モーションキャプチャ,アナログ同期装置,ワークステーションを利用することで,当初の目標どおり時間誤差5ミリ秒以下,空間誤差5㎜以下となる実験系の作成に成功した.その後,直ちに予備実験を行い,本研究の主たる研究対象であるMFRの計測が可能かを検討した.その結果,分析に十分耐えうる精度でMFRを誘発・記録できることが明らかとなったことから,本実験の実施に移行した. まず,MFRの機能的ゲイン変化の特性を検討する実験に着手した.具体的には,視野背景運動が誤差修正にとって重要である環境とそうでない環境において,誘発されるMFRの大きさ(振幅)の違いを比較検討することで,MFRの機能的ゲイン変化の特性の解明を目指した.つまり,実環境下では自己運動と相関して生ずる視覚情報(視野背景の運動)が到達運動の誤差修正に利用されている可能性が高いが,この情報の利用の度合いが環境の変化に応じて適応的に調節されるかどうかをMFRの振幅の変化から明らかにすることを狙っている.現在も実験を継続中であるが,これまでにMFRのゲイン変化は単なる視覚刺激に対する暴露量で決まるのではなく,修正運動を伴う場合に生ずるという知見を既に得ている.これは無意識的・反射的な修正動作であっても,高次の神経系がそのゲイン調節に関与している可能性を示すものであり,高次視覚野を介した運動生成の情報処理の仕組みとしては新しい知見となり得る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では初年度である平成24年度は実験系構築に充てていた.これに関連する一連の取り組みは極めて順調に進行し,平成25年度に予定していた本実験の一部を実施する段階にまで到達することができた.これは十分な予算の配当により目的の通りの計測機器の購入が速やかに実現したことや,そのために従来研究で蓄積してきたハードウエア・ソフトウエア双方のリソースを十分に活用できたことが大きい.極めて効率の良い準備を実現できたことで予想外の進展を得た. その後の予備実験・本実験も順調とみなせる進捗状況であり,このまま実験を推し進めていくことができれば,計画書通りの成果が得られる見通しが立ちつつある.したがって,平成25,26年度は被験者雇用,データ処理援助者に係る人件費と,研究成果の公表に係る経費を執行し,実験の迅速な実施と成果の早期公表を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度より開始した本実験を推し進めるのが当面の目標である.前述のように,MFRの機能的ゲイン変化の特性を検討する実験に着手しており,MFRのゲイン変化が視覚刺激に対する暴露量で決まるのではなく,修正運動を伴う場合にのみ生ずるという知見を得ている.この実験に関しては,これまでに10名前後のデータ収集が終了しており,さらに20名程度のデータを収集する予定である.またその後は,姿勢安定性の違い(視野背景運動の安定性や有効性)が及ぼす影響も併せて検討する予定である. またこれと並行して,MFRの側性に関する実験を行う.これまでの予備実験では,同一の視覚刺激に対して左右それぞれの腕で到達運動を行う際に誘発されるMFRの振幅には違いが認められている.この左右差(つまり側性)を決めている情報処理の仕組みを整理するために,半視野の視覚刺激を利用して,視覚空間と腕運動との相互作用を確認する実験をスタートさせる. ここまでのデータの処理が終了次第,関連学会及び研究会での発表を行い,論文化に向けた議論を深める.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度以降は設備備品の購入予定はない.したがって今年度は,実験遂行のための消耗品と被験者,実験補助者雇用のための人件費を随時執行していく予定である.特に人件費に関しては実験の頻度が増加することが予想されるため,計画を超過した予算執行の可能性もあるが,不足分は昨年度未執行の経費で賄う予定である. 実験結果が早期に得られたため,平成24年度は研究発表及び研究打ち合わせに伴う旅費を予定を超過して執行した.この経費は平成25年度分に予定していたものであり,平成25年度分を充当する予定である.また,論文化に伴う英文校正や印刷代も計画通りに執行予定である.
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