スポーツによって紡がれる「物語」の力について検討するために、プロ野球の東北楽天イーグルスが2013年パ・リーグ優勝と日本シリーズ優勝を決めた翌日から3日間の新聞(東北地方の地方紙6社と全国紙5紙)や日本シリーズ翌日のテレビ放送において、楽天イーグルスの優勝が如何に物語られているかを明らかにした。楽天イーグルスの優勝を取り上げた10の社説において、球団再編騒動の末に誕生した楽天の初年度は屈辱的な最下位だったこと、苦難の末9年目にして優勝をしたこと、震災後初めてのホームゲームで嶋選手が「東北の底力」をキーワードにしたスピーチをしたことに等に言及している。直ぐに良い結果は出せないものの粘り強く戦う楽天の姿と、復興がなかなか進まない被災地の現実とをシンクロさせて表現していた。優勝という「出来事」を被災地の生活と関わらせ、勇気、希望、癒やしが与えられたことを基調に社説が書かれていた。 各紙およびテレビのニュースにおいて、一般の人々やファンらのコメントが掲載・放映される構成となっており、優勝が被災地を勇気づけたという物語から逸脱するような内容は1件もなかった。こうした構成は、読者・視聴者が楽天優勝という出来事を共に体験しているのだということを感じるような仕掛けになっており、その内容は震災に対する楽天優勝の意味づけを一義的に示すテキストとなっていた。物語は、生活世界を理解可能・受容可能にする概念装置として機能し、更にある人の苦悩や癒しが他者のそれとかみ合うことで共感の公共世界が形成される。被災地において紡がれるスポーツの物語には、このような「スポーツの力」が存在することが推察される。 本年度も引き続き女子プロ野球の調査を実施した。以前は女性性を強調したプライベートな情報によって選手を特徴化していたが、プレイヤーとしての特徴によって選手をキャラクター化する演出になっていることが分かった。
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