スポーツ選手の心理的能力に関する研究は、主にスポーツ心理学分野によって担われてきた。その長年の研究成果によりスポーツ選手の競技力を左右する心理的能力として、動機付け、ストレス耐性の重要性が確認されているしかし、その大部分が現象記述レベルにとどまっており、アスリートの心理的能力を規定する生物学的基盤を明らかにした研究はほとんど存在しない。 この点を明らかにするため、今年度は、研究2年次までに収集したアスリートの生体試料解析を実施し、アスリートの競技力を規定する生物学的因子に関して、アスリートの競技レベルが、神経伝達物質・内分泌機能と密接に関与する可能性を見出した。具体的には、競泳選手の遺伝子多型と競技力の指標となるFINA得点の関連性解析により、自己制御能力(Self-control)・動機付けに関わるドパミン神経系活動を規定する遺伝子多型・ホルモン分泌レベルが、競泳選手の競技力と関連性することを明らかにした。以上の知見は、自己制御能力・動機付け・ストレス耐性を生み出す脳機能活動の個人差が、スポーツ選手の競技力を規定する可能性を示唆していると考えられる。第二に、神経栄養因子の分泌量に影響を与える遺伝子多型分布が、柔道トップ選手と一般成人とで異なることを見出した。過去の研究から、柔道選手に多くみられる遺伝子型は、精密な運動制御にかかわる小脳体積を増大させることが明らかにされている。以上を踏まえると、遺伝的に規定された運動制御能力が、柔道競技への適性を決定している可能性がある。
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