研究課題/領域番号 |
24500787
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
花井 淑晃 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50360730)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 骨格筋 |
研究概要 |
24年度は、成熟ラットの下肢骨格筋におけるIGF-1受容体の発現調節について、1. 筋によって発現レベルが異なるか否か2. 発現レベルは筋の収縮特性、代謝特性と関連があるか、3. 急性運動(一過性トレッドミル走)により調節されるか、について検討を行った。 安静時のラットにおいて、下肢骨格筋であるヒラメ筋(84% slow fiber)、足底筋(94% fast fiber)、長指伸筋(96% fast fiber)、長内転筋(87% slow fiber)を対象としてIGF-1受容体の発現レベルをmRNA、およびタンパクレベルで検討した結果、IGF-1受容体の発現は、mRNAレベルでは有意な差が認められなかったものの、タンパクレベルでは主として遅筋線維よりなるヒラメ筋で高い発現レベルであった。一方、腓腹筋の深層部(50% slow fiber)と表層部(100% Fast fiber)を用いた同一筋内の筋線維組成の違いによる検討では、タンパクレベルでは差が認められなかったが、mRNAレベルでは遅筋線維の割合の高い深層部で有意に高い発現であった。これらの結果は、IGF-1受容体の発現レベルは、筋線維組成と、その他、何らかの因子により、タンパクレベルとmRNAレベルで異なる調節を受けている可能性を示唆するものである。 一方、有酸素的運動強度(20m/min, 60min)での一過性のトレッドミル走では、IGF-1 mRNA、IGF-1受容体mRNAのいずれにおいても有意な変化は認められなかった。 IGF-1受容体の発現レベルが、運動時の動員や活動レベルの高い遅筋(遅筋線維)において高い傾向が一部見られたことは、これら筋における安静時、運動時の代謝調節に、遅筋で高いIGF-1受容体発現が、何らかのかの影響を持つ可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の本研究の到達度については概ね順調に進行していると考える。 骨格筋における同化ホルモンの受容体発現については、これまでも様々な研究が行われているが、特に、成長・肥大調節や、代謝調節に大きく関与すると考えられるGHとIGF-1の受容体発現については、安静時、運動時の動員様式や、代謝特性、収縮特性、さらには肥大反応などが異なる様々な骨格筋間で、どのように調節されているのか、これら、生理反応の違いに貢献しているのか否かについて、一定の見解を得ていない。 今年度は、特に、IGF-1受容体の発現レベルの調節を中心に検討を行った。安静時のラット下肢骨格筋におけるIGF-1受容体の発現レベルについて、mRNAの発現レベルの比較については、抽出RNAを用いた定量的RT-PCR法、タンパクの発現レベルの比較については、筋ホモジネートを用いたWestern blot法により、半定量的に分析する手法を確立できた。また、急性運動負荷の影響を検討するための、トレッドミル走を用いた、有酸素的強度(20m/min, 60min)での一過性運動負荷プロトコルにて、一過性の運動の影響を検討するモデルを確立できた。一過性運動については、IGF-1受容体のmRNAレベルについて、運動後にいかなる筋においても有意な変化が認められなかったが、本検討で用いた運動負荷(20m/min, 60min)は、有酸素運動としては最大レベルの強度であり、また、同レベルの運動負荷での長期にわたるトレーニングでは、筋に有酸素適応が生じることが明らかにされていることから、IGF-1受容体mRNAの発現レベルについては、急性の筋活動と、それによる代謝的、力学的要因の急性な変化に対しては、筋のIGF-1受容体の発現レベルは調節されないと結論付けられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果により、成熟ラットの異なる下肢骨格筋間における、IGF-1受容体発現の異なる調節が、一部明らかとなった。今後の研究については、以下の点を課題として進めていきたいと考える。1.異なる下肢骨格筋間で観察されたIGF-1受容体の発現レベルの違いが、どのような因子の違いにより生じているのかを明らかにする。2.GH受容体の発現レベルについても同様の検討を行う。3. 様々な下肢骨格筋のIGF-1受容体、およびGH受容体の発現レベルに対する持久的トレーニングの影響について。 1.については、IGF-1の遺伝子発現を調節することが知られているいくつかの因子について、IGF-1受容体の発現が異なった筋間で比較を行う。特に、有力な調節因子として、IGF-1受容体の発現を翻訳レベルで負に調節するとされる、マイクロRNA(miR-1, miR-133)の存在が報告されている。これらの発現レベルが、昨年度の検討で見られたIGF-1受容体の発現における、タンパク発現とmRNA発現の違いに対して、対応する関係にあるのか否かを検討したい。 2.については、昨年度のIGF-1受容体同様のモデルを用いてGH受容体のタンパクとmRNAレベルの発現調節について検討を行う予定である。 3.については、一過性の運動では変化が認められなかったIGF-1受容体mRNAの発現レベルについて、筋組織の有酸素適応(基質酸化能増加、遅筋化、など)を伴う持久的トレーニング後の筋において検討を行う予定である。自発回転ケージを用いた活動量の影響も検討課題とする。GH受容体についても同時に検討を行い、これら両者が有酸素適応時にどのように調節され、筋の運動適応に貢献するのかについて検討を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画について、主な使用用途は、1. 実験用ラットの購入、2. IGF-1受容体、GH受容体、およびその関連タンパクのmRNA、およびタンパクの発現レベルの解析に必要な試薬の購入、の二点である。 今年度予定の実験について、実験用ラットは、安静時モデル(24匹)、急性運動モデル(24匹)、活動レベルの検討(18匹)トレーニングモデル(18匹)にて、合計84匹の購入予定である(25万円)。 、mRNA発現については、定量RT-PCR法により行っていることから、細胞からRNAを調整する試薬と、定量RT-PCR反応のキットの購入が必要である(40万円)。タンパク分析については、Western blotにもちいる抗体の購入費用とメンブレン等の消耗品の購入費用に使用の予定である(15万円)。その他、消耗品など(10万円)に使用の予定であり、合計で、本年度の支給額90万円となる。 次年度以降(26年度以降)は論文作成と校正、学会発表にも使用する予定である。
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