研究課題/領域番号 |
24500789
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
杉浦 崇夫 山口大学, 教育学部, 教授 (80136150)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 筋損傷回復 / 筋成長因子 / RBM3 / 筋衛星細胞 |
研究概要 |
本研究の目的は、筋損傷後の処置として現在広く行われているアイシングに対し温熱負荷や体温よりもわずかに低い温度での処置が、損傷後の筋再生にどのような影響を及ぼすかについて、これまで報告されている筋成長因子に加え最近注目されアポトーシス誘導因子を阻害したり筋サイズの調整に関与していると考えられているCold inducible RNA-binding protein 3 (RBM3)、筋衛星細胞、筋タンパク質量、筋線維横断面積などについて4週間にわたり比較検討し、筋損傷後の再生を最も促進する処置温度条件について明らかにすることである。 平成24年度は、Wistar系雄ラットを用いRBM3発現が最も著しい温度ならびに対象とする筋種を決定することとした。得られた結果は、以下のとおりである。 1. 市販RBM3一次抗体の検討: ウェスタンブロット法を用い、RBM3検出可能な市販一次抗体3種について遅筋の代表であるヒラメ筋(SOL)と速筋の代表である足底筋(PLA)について検討した。当初検討した2社の抗体は、目的とするバンド以外と反応する交差反応のみで、既知分子量に位置するバンドを検出できなかった。しかし、残る1社については、交差反応を示すものの、既知分子量に相当するRBM3のバンドが検出された。 2. 32℃1時間刺激での変化:刺激温度をこれまでの培養実験による先行研究と同じ32℃に設定した。また刺激時間については前述の先行研究では6時間であったが、麻酔下で6時間は不可能と考え暫定的に1時間とした。その結果、刺激1週間後、SOLのRBM3発現量は増加する傾向がみられたが、PLAでは変化がみられなかった。また、免疫組織染色によるRBM3の発現局在について検討したところ、核で発現するとともに、32℃1時間の刺激によってSOLとPLA両筋でRBM3陽性核数は有意に増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年度予定では、水浴刺激温度を30℃、32℃、34℃、刺激時間を60分間に設定し、その後6時間、24時間、48時間、72時間でのRBM3発現の動態を検討することであった。 しかしながら、ウェスタンブロット法によるRBM3タンパク質の検出条件の検討において、一次抗体と二次抗体の種類ならびに希釈倍率、バンドの検出方法が定まらなかった。特に一次抗体については3社の抗体について検討し、ようやく既知分子量に相当するRBM3のバンドを検出することができた。 先行研究においてRBM3発現は、2週間の尾部懸垂によって萎縮したラットSOL においてRBM3が増加したことが報告されている。この点について、1週間の尾部懸垂を行い検討したところ、RBM3発現は対照群と比較して高い値を示す傾向にあった。また、32℃1時間の水浴刺激を加え1週間の尾部懸垂を施した群のRBM3発現は尾部懸垂群よりも高い値を示す傾向にあったが、有意な差は認められなかった。この結果は、RBM3発現において水浴刺激と尾部懸垂の相乗効果は認められず、動物実験ではRBM3発現を高めるには多くの刺激回数が必要であると考え、32℃1時間の刺激を一日おきに3回(1週間)あるいは6回(2週間)刺激し検討した。その結果、SOLでおよそ1.5倍、PLAでおよそ1.7倍の発現増加が認められたが、回数の違いは認められなかった。したがって、現在までに、次年度以降の計画における刺激条件は確立されたと考えられる。 。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた結果をもとに、ブピバカインにより筋損傷を誘導し、その後アイスパックでのアイシング、32℃での水浴刺激、さらに42℃での温熱刺激を実施し、その後の筋再生について、4週間にわたり生化学的、免疫・組織化学的に損傷からの回復状態について比較検討する。 実験動物には、10週齢のWistar系雄ラット200匹を用い、体重が等しくなるように対照群、無処置群、アイシング群、水浴刺激群、温熱刺激群にグループ分けする。対照群を除く各群には両脚のヒラメ筋、足底筋、前脛骨筋にブピバカインを筋注し筋損傷を誘発する。対照群には同量の生理食塩水を筋注する。筋注直後に、アイシング群にはアイスパックで15分間、水浴刺激群には32℃で60分間、温熱刺激群は42℃で30分間それぞれ処置する。さらに、水浴刺激群と温熱刺激群には1日おきに1週間、同じ条件で刺激を負荷する。損傷後3日、1週間、2週間、4週間後 (各温度、n=10) に両脚から対象筋を摘出し、筋重量を測定した後、直ちに液体窒素で凍結し、分析に供するまで-80℃で凍結保存する。 生化学的分析:筋サンプルをバッファーでホモジネートし、遠心分離の後、上清より可溶性タンパク質量を沈殿からは筋原線維タンパク質を抽出しタンパク質量を定量する。また、上清をSDS-PAGEによる電気泳動によってタンパク質を分離した後、ウェスタンブロッティング法により筋再生に関わる筋成長促進因子(TGF-β、Myo-D、Myogenin、フォリスタチン)や抑制因子(ミオスタチン)、ミオシン重鎖分子種を検出する。 免疫組織化学的分析:筋サンプルから厚さ10μmの凍結切片を作成し、ED1染色によりマクロファージを、Pax7染色、Desmin染色、DAPI染色より筋核、筋衛星細胞、筋線維横断面積、ミオシン重鎖抗体による筋線維タイプについて免疫組織化学的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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