本研究は、筋損傷後の処置として現在広く一般的に行われている受傷後数日間のアイシングとその後の温熱療法が筋再生に有効か否かを明らかにすることを目的とした。 平成26年度は、8週齢のWistar系雄ラットを用い、対照群(Cont)、損傷群(BPVC)、損傷+アイシング群(Ice)、損傷+熱ストレス群(Heat)、損傷+アイシング+熱ストレス群(I+H)の5群に群分けした。Cont群を除く4群には、ブピバカインをヒラメ筋に筋注し、筋損傷を誘発した。Ice群、I+H群には20分間のアイシングを損傷3日後まで毎日行った。Heat群には損傷2日後から、I+H群には損傷3日間のアイシングの後、最大14日後まで1日おきに42℃の温浴を30分間行った。損傷3 日、7 日、15 日、28 日後にラットを屠殺し検討した。 1)相対筋重量、CalcineurinおよびPGC-1α発現量は損傷によって減少し、回復に伴って増加したが、各処置群間に有意差は認められなかった。2)胎児型ミオシン重鎖分子種は、損傷7日後でBPVC群とHeat群がIce群より低値を示し、損傷28日後にIce群とI+H群で検出されたが、BPVC群とHeat群では検出されなかった。3)Heat群の活性型ならびに分化筋衛星細胞数は、損傷3日後において他の処置群よりも有意に高い値を示した。4)Akt/mTOR系シグナル、MyoD、Myogenin発現量、CD68面積は、損傷後早期に高値を示し、その後減少したが各処置群間に有意差は認められなかった。5)膠原線維面積は、回復に伴い有意に高い値を示したが、各処置群間に有意差は認められなかった。 以上の結果より、筋損傷後の再生過程における異なる温度刺激は、量的変化に影響を及ぼさないが、アイシングやアイシングと温熱刺激の組み合わせは胎児型ミオシン分子種の消失を遅延させる可能性が示唆された。
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