研究課題/領域番号 |
24500798
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
櫻井 拓也 杏林大学, 医学部, 助教 (20353477)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動トレーニング / 脂肪組織 / リモデリング / 細胞外マトリックス / デルマトポンチン |
研究概要 |
白色脂肪組織(以下、脂肪組織)は、運動トレーニングや肥満によって再構成(リモデリング)を起こす可塑性を持つ臓器である。この脂肪組織のリモデリングには、脂肪細胞とそれを取り巻く細胞外マトリックス(ECM)との相互作用が重要な役割を果たしている。本課題は、この運動トレーニングや肥満による脂肪組織のリモデリングのメカニズムを、脂肪組織での機能が不明なECM分子・デルマトポンチンの役割に着目して明らかにすることを目的としている。平成24年度の検討では、脂肪含量60%の高脂肪食を4ヵ月間摂取させたC57BLマウスの副睾丸周囲脂肪組織において、デルマトポンチンとデルマトポンチンによって生理活性が上昇するトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βや組織性メタロプロテアーゼ阻害因子(TIMP)-1などの組織の線維化に重要な因子の遺伝子発現が対照群に比べ著明に増加していたが、回転かごでの自発運動走による運動トレーニングはそれらの発現増加を有意に減弱させるという結果が得られた。したがって、運動トレーニングは肥満による脂肪組織のデルマトポンチンを含む線維化関連因子の発現増加を減弱させることが示唆された。肥満による脂肪組織の線維化は、肥満・糖尿病などの病態に深く関与することが推察されているが、その進展機序や分子メカニズムについては不明な点が多く、今後の更なる検討が必要である。今回の検討から、デルマトポンチンが脂肪組織の線維化に重要な役割を果たすことが推察され、さらに、運動トレーニングがデルマトポンチンの発現を低下させることで脂肪組織の線維化に対して減弱作用をもつことが予想された。これらの結果は、肥満・糖尿病の予防・改善ツールとしての運動トレーニングの新しい有用性を示していると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪組織のリモデリングに対する細胞外マトリックス(ECM)の役割を検討している過程で、脂肪組織での機能が不明なECM分子・デルマトポンチンの遺伝子発現が4週間の高脂肪食摂取による肥満マウスの内臓脂肪組織で増加し、運動トレーニングはその増加を抑えるという予備的な結果を得ていた。今回、高脂肪食摂取と運動トレーニングの期間を4ヵ月に延長し検討を行ったところ、肥満による脂肪組織でのデルマトポンチンの発現増加が4週間の場合よりも著明に増加することや、4ヵ月に延長した場合でも運動トレーニングはデルマトポンチンの発現増加を有意に減弱させるという結果が得られた。さらに、4ヵ月の高脂肪食摂取による肥満マウスの脂肪組織では、デルマトポンチンと密接な関連をもつと推測されるTGF-βやTIMP-1などの組織の線維化に重要な因子の遺伝子発現も増加したことから、デルマトポンチンは肥満による脂肪組織の線維化に関与すると予想され、運動トレーニングは脂肪組織の線維化に対して減弱作用を有すことが示唆された。これらの結果は、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成に有用な知見であることから研究の達成度はおおむね順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の検討では、脂肪組織におけるデルマトポンチンの機能に焦点をあて検討する 1) in vitroにおける脂肪細胞に対するデルマトポンチンの機能解析 デルマトポンチンレンチウイルスを分化誘導後の3T3-L1脂肪細胞に感染させ、デルマトポンチン高発現3T3-L1脂肪細胞を樹立する。この細胞の細胞内へのグルコース取り込み、脂肪分解反応、アディポカインの発現変化ならびに褐色脂肪組織化に関与する因子(脱共役タンパク質1など)の発現変化を、TGF-β存在下もしくは非存在下で既知の方法で検討する。これらの実験系が確立された後、ゲルマトリクスを用いた3次元培養に応用が可能かを検討する。 2) in vivoにおける脂肪組織に対するデルマトポンチンの機能解析 上記の実験1で得られた脂肪細胞に対するデルマトポンチンの機能が実際に生体の脂肪組織で果たされているか検討を行う。高脂肪食摂取マウスを用いて行われた運動実験において、各マウスの脂肪組織におけるデルマトポンチン発現が大きく変動した運動条件を用いて、上記の実験1で得られたデルマトポンチンによる変化が脂肪組織で起こっているか観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究の推進方策にしたがって平成25年度の研究費を使用する。平成25年度の研究費(130万円)のうち、20万円程度を実験動物関連に、100万円程度をDNA合成酵素、Real-time PCR 用プローブやプラスチック器具などの消耗品に、10万円を学会出張費などのその他の費用として使用する計画である。
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