研究課題/領域番号 |
24500798
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
櫻井 拓也 杏林大学, 医学部, 講師 (20353477)
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キーワード | 運動トレーニング / 脂肪組織 / リモデリング / 細胞外マトリックス / デルマトポンチン |
研究概要 |
肥満や運動トレーニングによる白色脂肪組織(以下、脂肪組織)の再構成(リモデリング)には、脂肪細胞とそれを取り巻くコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)が重要な役割を果たしていると考えられるが、未だ不明な点が多い。本課題は、この運動トレーニングや肥満による脂肪組織のリモデリングのメカニズムを、脂肪組織での機能が不明なECM関連分子・デルマトポンチンを中心として検討することを目的としている。これまでに、脂肪組織のデルマトポンチンや他のECM関連分子である組織性メタロプロテアーゼ阻害因子1(TIMP-1)の遺伝子発現が肥満マウスでは増加し、運動トレーニングはそれらを減弱させることを見出している。平成25年度は、脂肪組織におけるデルマトポンチンの生理機能の解明を目的に検討を行った。デルマトポンチンはトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の生理活性を増加させることが肺上皮細胞で報告されているが脂肪組織ではよくわかっていない。一方、TGF-βは脂肪細胞においてプラスミノーゲン活性化抑制因子1(PAI-1)の遺伝子発現を増加させるので、脂肪細胞におけるTGF-βのPAI-1遺伝子発現増加作用に対するデルマトポンチンの強調作用について解析を行ったが、デルマトポンチンの影響は観察されなかった。したがって、デルマトポンチンは脂肪組織ではTGF-βの生理活性増強とは別の機能をもつことが示唆された。現在、脂肪組織におけるデルマトポンチンの生理機能を解明するため、デルマトポンチンと相互作用をもつタンパク質を単離するための実験を行っている。これに加えて、TIMP-1は脂肪細胞においてインスリンによるグルコース取り込みを減弱させることがわかった。これらの結果から、運動トレーニングのECM分子発現増加減弱作用は、インスリン抵抗性の減弱に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討から、5週間の高脂肪食を摂取させて肥満させたマウスの内臓脂肪組織ではデルマトポンチンの遺伝子発現が増加するが、この増加を自発運動走による運動トレーニングが減弱させること、さらに、高脂肪摂取の期間を4ヵ月に延長しても同様の傾向が観察されることを見出している。平成25年度は脂肪細胞におけるデルマトポンチンの機能を明らかにすることを目的に検討を行った。デルマトポンチンがTGF-βの生理活性増強作用をもつこと、TGF-βは脂肪細胞においてPAI-1の遺伝子発現を増加させることがわかっているため、デルマトポンチンは脂肪細胞においてTGF-βのPAI-1遺伝子発現増加作用を増強させることが予想された。しかしながら、デルマトポンチンによる影響は観察されなかったことから脂肪組織においてはTGF-βの生理活性増強とは別の機能をもつことが示唆された。この結果から、デルマトポンチンは脂肪組織ではTGF-βではない別のタンパク質と相互作用する可能性が考えられたため、現在、デルマトポンチンと相互作用するタンパク質の同定実験を進めている。このタンパク質が同定されれば脂肪組織におけるデルマトポンチンの新しい機能を発見する上で極めて有用なデータになると思われる。また、脂肪組織でデルマトポンチンと同様な発現変化を示すTIMP-1は、脂肪細胞に対するインスリンのグルコース取り込み作用を減弱させることがわかった。このTIMP-1のインスリンシグナル減弱作用にデルマトポンチンが関与する可能性も考えられ、今後、更なる解析を行う予定である。以上の結果は、運動トレーニングのECM分子発現増加減弱作用がインスリン抵抗性の減弱に関与している可能性を示唆するものであり、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成に有用な知見であることから研究の達成度はおおむね順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は脂肪組織でのデルマトポンチンの機能について解析を進め機能の解明を目指す 1)デルマトポンチンと相互作用するタンパク質の同定 デルマトポンチンは液性因子であるTGF-βと結合し生理活性を増強することから、脂肪組織から分泌されるアディポカインや他のタンパク質と相互作用する可能性が考えられる。デルマトポンチンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)の融合タンパク質を大腸菌内で合成した後、GSTと特異的に結合するglutathione-sepharose 4Bビーズを用いて精製する。精製したデルマトポンチン-GST融合タンパク質と脂肪組織の細胞抽出液を反応させた後に、デルマトポンチンに結合するタンパク質を質量分析機で同定する。同定されたタンパク質から推察されるデルマトポンチンの脂肪組織における役割を3T3-L1脂肪細胞などを用いて検討する。また、デルマトポンチンとTIMP-1の相互作用についても検討を行う。 2)in vivoにおける脂肪組織に対するデルマトポンチンの機能解析 脂肪細胞におけるデルマトポンチンの機能が実際に生体の脂肪組織で果たされているか検討を行う。高脂肪食摂取による肥満マウスを用いて運動実験を行い、上記の実験で得られた結果が実際に in vivoでおこっているか観察する。さらに、副睾丸周囲や皮下脂肪組織などの部位別の差異についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用金額については、すでに実験試薬等の購入を済ませており、平成26年度は交付申請書の計画に沿った使用を予定している。 上記の通り、未使用金額については実験試薬等の購入をすでに済ませている。平成26年度の研究費は、交付申請書の計画ならびに今後の研究の推進方策に沿って10万円程度を実験動物関連に、100万円程度をDNA合成酵素、Real-time PCR用プローブ、抗体やプラスチック器具などの消耗品に、20万円程度を学会出張費などのその他の費用として使用する予定である。
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