研究課題
本研究の目的は、骨格筋損傷に対して、通常の安静加療よりも早い修復が可能とされる微弱電流刺激と、腫脹、疼痛を軽減させるアイシングを同時に施行し、その両方の効果を得ることで微弱電流のみよりもさらに早い組織修復が可能となるか検討することであった。初年度(平成24年度)は、マウス(C57BL/6J)を用いて、損傷骨格筋に対するアイシングのタイミングが組織修復に及ぼす影響について筋衛星細胞の変化を中心に検討したが、筋損傷直後のアイシングは筋衛星細胞の活性化を抑制し、損傷骨格筋の再生を遅延させる可能性が示唆された。そこで昨年度(平成25年度)は、まず筋損傷直後のアイシングの影響について、さらに増殖因子・サイトカインについても検証を加えた。マウスを用い、無処置(C)群、前脛骨筋(TA)にcardiotoxin(CTX)を注入し筋損傷を惹起させ、その直後にアイシングした(IE)群、また8日後にアイシングした(ID)群の3群に分け、筋注後2週にて各群のTAを摘出し、Western blottingによりHGFタンパク質発現量を測定した。しかしながら3群間には有意差は認められず、今後の実験系において採取時期を追加し、他の増殖因子・サイトカインについても検討することとした。またその後、マウスを無処置(C)群、TAにCTXを筋注した(X)群、CTX筋注直後に冷却した(XI)群、CTX筋注直後に冷却しその後3週間微弱電流(週3回、各60分間)を加えた(XIM)群の4群に分類し、当初の計画通りアイシングと微弱電流の併用効果を検証するための実験系を開始した。今後は、HE染色、および免疫染色(Pax7、Laminin、DAPI)を施行して分析を進める予定であり、また各種増殖因子・サイトカインの検索も検討し、より多角的な検証を目指すことにしている。
2: おおむね順調に進展している
本研究で検討する内容として、骨格筋損傷の修復に対するアイシングの影響、そしてアイシングと微弱電流との併用効果、がある。初年度は、骨格筋損傷に対するアイシングの影響を筋衛星細胞の動向を中心に評価した結果、アイシングの時期の違いによりその内容が異なることを明らかにした。そして昨年度は、それらの結果を元に、骨格筋損傷に対するアイシングと微弱電流刺激の両方の影響を評価する目的で、①未処置のコントロール群、②筋損傷群、③筋損傷+直後のアイシング群、④筋損傷+直後のアイシング+微弱電流刺激群、の4群を設定、作成しすでに実験系を開始している。今後、各評価項目の測定、分析を進める予定であり、現在までの達成度としては十分に満足すべきものである。
これまでの実験結果にて、骨格筋損傷直後のアイシングは損傷からの修復を遅延させることが明らかとなった。したがって、疼痛および腫脹の緩和作用を持つアイシングと、組織損傷の修復促進効果がみられる微弱電流を組み合わせることは、臨床上きわめて有益であり、本研究の意義はより大きくなったものと考えた。今後の研究では、実験の群設定を①未処置のコントロール群、②筋損傷群、③筋損傷+直後のアイシング群、④筋損傷+直後のアイシング+微弱電流刺激群、とし、評価項目は、筋重量、筋線維断面積、中心核を有する筋線維数/筋線維数比、筋衛星細胞数/全筋核数、として、また筋再生に関わる増殖因子・サイトカインの動向についても検証を予定する。最終年度(平成26年度)にて、アイシングと微弱電流の併用で筋損傷の修復が促進されるかを明らかにし、従来からの安静を主とした保存的治療とは異なる、新しい骨格筋損傷の治療法の確立が期待できる。
消耗品、旅費(打ち合わせ目的)が効率良く使用できたことや、実験の一部が全体の計画には支障が無いものの若干遅れたこと、等により次年度使用額が発生した。次年度が最終年度にて、試料の測定・分析量も多くなる可能性があり、また遅れた一部の実験系を遂行するために、次年度に全て使用する計画である。
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巻: 4 (2 ) ページ: 61-67
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